22・【ハロルド視点】ドラゴンにやられるハロルドご一行
ハロルドたちは隣国のドラゴンを倒すべく、洞窟に向かっていた。
「傷も完治して、本当によかったですわ」
歩きながら、魔法使いのロザリーがそう口にする。
「ああ。早く怪我を治して、ドラゴンを倒しにいかなくっちゃだしね。君の笑顔を思い浮かべたら、あんな傷へっちゃらさ」
「たのもしいですわ」
微笑むロザリー。
「ちっ……」
少し離れたところではフォルカーが舌打ちをして、ハロルドたちに付いてきていた。
優越感が胸を包み、ハロルドは気持ちいい気分になる。
──ドラゴンを倒すため。
アリシアを追放してから、ハロルドたちは冒険者の依頼を失敗し続けていた。
そのせいで先日は酷い傷も負ってしまった。
しかしそれも完治し、とうとう隣国のドラゴンを倒すべく行動を開始したというわけだ。
(今回の依頼は、僕の冒険者ランクがかかっている。失敗すれば、今度こそ降格になってしまうだろう。失敗は許されない……!)
表上では余裕ぶっているハロルドではあるが、内心では追い詰められていた。
やがてハロルドは洞窟の前で足を止める。
「この中にドラゴンがいるのかい?」
「ええ。話に聞いた通りだったら……ですが」
「だったら、早く行きましょう。あまり時間をかけていては、ドラゴンに逃げ出されるかも……」
とフォルカーが洞窟の内部へ入ろうとした時であった。
彼はなにかに弾かれたように、その場で止まってしまう。
「どうしたんだ?」
「いえ……入り口に結界が張られているようです。このままでは入ることが出来ません」
「少し見せてください」
ロザリーがフォルカーの前に出て、ハロルドの目では見えない結界に手を触れる動作をする。
「……あの女の結界ね。まさかあいつも、ここに来てるだなんて。なんのつもりかしら?」
「ロザリー? なにか言ったかい?」
「なんでもありませんわ」
ぶつぶつとなにかを呟くロザリーにハロルドは問いかけるが、彼女は妖艶な笑みを浮かべていた。
「ですが、結界なら問題はありません。この程度なら……」
ロザリーの手から魔力が放出される。
次の瞬間、結界がパリンと音を立て壊れる音がした。
「わたくしでも壊せますから」
「さすがだよ、ロザリー! 君がいなかったら、ここで足止めされているところだった。それに比べて、フォルカーは役に立たないね」
「あなただって、なにも出来ずに見ていただけでしょう!? 偉そうなことを言わないでください!」
「まあまあ。そんなことより、早く行きましょうよ。ドラゴンが逃げてしまうかもしれないんでしょう?」
喧嘩を始めるハロルドとフォルカーの二人を、ロザリーが宥める。
まだ納得していなかったが、彼女にそう言われとなっては無視出来ず、ハロルドは洞窟内に足を踏み入れた。
そしてしばらく進んだ後。
それは現れた。
『ほほお? 人間か。洞窟の入り口には結界が張っていたはずだがな。どうやって入ってきた?』
巨大なドラゴンがハロルドたちを見下す。
「で、でかい……!」
「ロザリー、本当にこのドラゴンは雑種級なんですか!? とてもじゃありませんが、そうは見えず……」
「心配なさらないでください。確かに雑種級ですわ。見た目に騙されないでください」
『雑種級?がなんなのかは知らぬが、言われてあまり良い気分にならない単語だな。よかろう』
空気が変わる。
『力の差を思い知らせてやろう』
戦いが始まった。
ハロルドたちは勇敢に立ち向かったが……。
「なんだ!? でかいだけじゃなく、素早いぞ!」
「それだけではありません! 鱗が硬く、攻撃が通る気がしません!」
ドラゴンを前に、ハロルドたちは成す術がなかった。
『ガハハ! 貴様らごときで、我に傷を付けられるわけがなかろう! 我を倒せるのは、姉御のみだ』
姉御とはなんだ……? と思うが、それを追及している余裕はなかった。
『おい、そこの女よ。貴様は見ているだけか?』
そのぎょろっとしたドラゴンの大きい瞳が、ロザリーに向けられる。
「わたくしはあなたを倒す気がありませんもの」
『なぬ?』
「わたくしの目的は別のもの」
「お、おい、ロザリー。なにを言い出すんだい……? 力を合わせてドラゴンを倒すんじゃ……」
ハロルドがロザリーの言葉の真意を測りかねている時だった。
彼女の姿が彼の前から消失する。
そして次の瞬間には、彼女はドラゴンの頭頂部に着地していた。
『貴様……っ! 我を愚弄するような真似はするな!』
「伝説級のドラゴンと真正面から戦う気はないわよ。まあ、わたしが勝つけどね。魔力を消費してしまうし、そんなもったいない真似は出来ないわ」
(僕は……なにを見ているんだ?)
ドラゴンと対等に──いや、なんなら見下すように話しているロザリーはいつもの可憐な彼女には見えなかった。
喋り方や雰囲気も変わっているし、これが彼女の真の姿と思うくらいだ。
「わたしはあんたの鱗が欲しかっただけよ」
ロザリーから魔力が放出されたかと思うと、その手元には固い塊のようなものが握られていた。
「頂くわね」
『我が貴様を逃すと思うか? 戦わずには、逃げられないぞ。貴様の本当の力を見せてみせよ』
「そうねえ、確かに本来ならそうしないと逃げられないわ。だけど……」
とロザリーがハロルドたちに目を向ける。
「わたしには奴隷ちゃんがいるから」
ロザリーの妖しく光る相貌を見ていると、ハロルドは視線が逸らせなくなっていた。
それが致命傷となった。
ハロルドの体から黒いオーラが発せられる。
「ぐああああああああ!」
突如、全身に襲いかかる苦痛。
隣に視線を移すと、フォルカーも同じ目に遭っているようだった。
(これもドラゴンの攻撃か……?)
痛みに耐えながら、次にドラゴンとロザリーを見ると。
『凶暴化か!? 貴様、そいつらは仲間じゃなかったのか! 凶暴化など施したら、そいつらの体はどうなると思っている!』
「悪くて死。よくても、もうまともに生活出来なくなるくらいボロボロになってるでしょうねえ。でもわたしに興味はないわ。だって、そのために今まで搾り取ってきたんだから」
ドラゴンの頭から跳躍し、地面に着地するロザリー。
「じゃあね。バイバイ。アリシアを追放したのが、あんたらの運の尽きだったわね。わたしがそう仕向けただけだけど」
「待って……くれ。ロザリー、君は一体……」
言い終わるよりも早く、ロザリーはハロルドたちの前から姿を消してしまった。
『我も貴様にまだ話を──くっ!』
いつの間にか、ハロルドの目の前にドラゴンがいた。
(あれ……? 僕、いつの間に移動して……それに剣を振るっている?)
意識が朦朧とする中、ハロルドは自分がドラゴンと戦っていることに気付く。
もうドラゴンには勝てないと足がすくんでいるのに……だ。
『まずは凶暴化した二人を無力化させるのが先か。加減が苦手だったから、あまりこの手は使いたくなかったが……』
ドラゴンの大口が開き、火炎のブレスが吐かれた。
猛火に包まれるハロルド。
だが、身を灼かれる熱さであっても、今体を支配している苦痛に比べれば可愛いものだった。
『……勘違いするなっすよ。お前らなんて、殺すの簡単なんだから。だけど……人間を殺したら、姉御に怒られる気がしたから。だからこの程度にしといてやるっす』
ゆっくりと自分の体が倒れていく感覚がする。
意識が消えようかとした寸前、
『あの女は……今から追いかけても、もう遅いか。それよりも……このゴミ二人、オレはどうすれば?』
ドラゴンの途方に暮れるような声が最後に聞こえた。
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