7 本物なの?
取りあえず椅子に腰かけ、ため息を付く。
落ち着こうと深呼吸を繰り返すが、やっぱり不安は拭えない。
いかんいかん、もう一度ステータスを見て打開策を考えよう。
そう思って口を開きかけた時だった。
キユィーンという耳鳴りにも似た音が響き出し、『ガガガガッ、ゴゴゴゴッ』と耳障りな音に変わる。
慌てて両耳を押さえると、音は段々静かになって消えてしまった。
「な、何、今のは?」
そのまま両耳を手で揉んでいると、今度は機械の音声が頭の中で聞こえ出したのだった。
『ナビゲーションシステム構築完了。続いて使用者に合わせた設定変更に移ります……ギーッガーッ』
急に何なの? 何が始まってるわけ?
それとも私、頭がおかしくなったの?
驚いて体を硬くしたままの私の耳に、今度はピコンッという高めの音が鳴る。
そして、異世界転移自体が小さな事に思えてしまう程の衝撃が私を襲った。
『あー、あー、聞こえるかいカエデ?』
先ほどの機械音に代り聞こえて来たのは、紛れもないあの人の声だった。
「や、八重子さん!?」
動揺しながらも聞き返す私とは裏腹に、その声は快活そのもの。
『そうだとも言えるし、違うとも言えるね』
「え? でも八重子さんの声だよ? 八重子さんじゃないの?」
『私はナビゲーションシステムさ。カエデの中の記憶から、アンタに一番適していると判断した情報を使って生まれたのが私だよ。だから八重子でもあるし、八重子では無いとも言えるね。いつも言っているだろう? カエデの気持ち次第だって』
私の目から止めどなく涙が溢れ出した。
八重子さんが亡くなって7年も経っているのに、彼女を思い出さない日は無かった。
私が迷ったり、困っている時は「いつも、どんな時でも、最後はカエデの気持ち次第なんだよ」って言ってたっけ。
本物の八重子さんではないかも知れないが、私の記憶の中の八重子さんだって偽物では無いんだ。
訳の分からない状況に陥ってしまっている今。
間違い無く、私の気持ちが救われているのは事実。
だから私は自信をもって判断できる気がした。
「そのセリフ、間違い無く八重子さんだね」
『カエデがそう思ってくれるなら嬉しいよ』
泣き笑いの私の返答に、八重子さんの声は間違い無く嬉しそうだ。
『初めに言っておく事が有るよ。まず、私はカエデをサポートする為のシステムではあるが、何でも知っている訳では無いって事。ある程度の事は知っているっていうのが正しいと思う。そして、知っていても教えられる事と、教えられない事が有るんだ。神様に関しては口外出来ない事が多いもんでね。ただし、嘘はつかないって事は約束するよ。神に誓って私はカエデの味方だからね』
八重子さんはそう前置きして、今私が置かれている状況を知っているかぎり説明してくれたのだった。
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