4 状況確認する?
しばらくの間放心していた私。
だけどね、そこで八重子さんの言葉を思い出したんだ。
『私が先に死ぬのは間違いないんだ。だから楓はいつか一人で生きて行かなくちゃならない日が来る。嫌な事や辛い事もいっぱいあるだろうけどね、忘れるんじゃないよ? 進まなければ状況は変わらないし、変える事は出来ないんだよ。だからまずは少しでいいから前に進むんだ、きっと何かが変わるはずだよ』
私を一人にする事を心配して、八重子さんは色々な事を教えてくれた。
今こそ、その教えを生かさねばいかん!?
自分の頬を両手でパシンッと叩き気合を入れる。
まずは状況確認だ。
そう思い至って立ち上がると、囲いの中を見て回る事にした。
見るといっても大した物は無いのだが。
私が寝ていたのは囲いの中の入り口付近。
観音開きの戸に木で出来た閂がはまっている。
入口を背に振り返ると、踏み固められた道の奥には車が入りそうな大きさの掘っ立て小屋。
近付いてみると、建物は簡素だが開き戸で、割としっかりした造りだ。
窓はガラスじゃ無く、板を押し出して木で支える使い方らしい。
そして、中には人が住んでいたと思われる形跡があった。
入って左手にテーブルと椅子が4つ有って、横の棚には手造りっぽい木の食器らしきものが残っている。
他にも何やら入っていそうだが、細かい確認は後にしよう。
あとは右手のベッドと思われる木の台のみだ。
令和の時代に木皿? 家の造りもなんか知っているのと違うし……。
何となく思う所が有りながら、あえてその考えは無視して外に出る。
長いこと雨が降ってないって事だろうか。
乾燥した大地を見て、そんな事を思いながら周りを見渡すと、小屋の右横に何か有る。
近付いてみると、厚みのある石板に蛇口みたいな物が付いていた。
公園に有る洗い場みたいな感じだ。
しかし下を向くように湾曲した管が出ているだけで、ひねって調節する所が無い。
代わりについているのは親指爪大の透明な石のみ。
触ってみたが何も起こらなかった。
顔を上げると、建物の裏手になる所に小さな建物がある。
開き戸を開けて中を覗くと、人が一人入れる位のスペースで、深めの穴が開いている。
どうもトイレと思われるが、汲み取り式なんぞ見た事が無い為、そうだとも言い切れない。
気を取り直し囲いをぐるりと見回してみると、出入口と思われる場所が一つ、目が覚めた場所の観音開きの戸しか無かった。
外の様子はどうだろうと、閂板が少し重いが、外して外の様子を見てみる事にしたのだが―――。
そこに広がるのは一面の荒野。
しかもやっぱり雑草の一つも見えやしない。
取りあえずここでも無心で外回りを回ってみる。
考え過ぎてパニックになってはどうしようもないからだ。
出入り口の丁度裏手には、割と近くに森らしきものが有るのだが、全く葉が付いていない枯れた木ばかりが見える。
まるでお伽話に出て来る魔女の森の様だ。
そう思った時、私の頭上に影が差した。
曇って来たのかと見上げてみる。
「!?」
慌てて私は囲いの影に入ってソレをやり過ごした。
影が通り過ぎた所でそおっと覗き見ると、茶色の身体に大きな羽を広げて悠々と飛んでいるソレは、こちらに気付く事無く上空を通り過ぎて行く。
マジで!?
有り得ないんだけど!?
只々、驚愕するしか無い私だった。
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