30 さっぱりしたよ?
家に入ると、トイレのドアの左隣に同じようなドアが並んでいる。
そおっとドアを開け中を覗き見ると、右手に棚があり、脱衣籠が2つ。
奥にお風呂場の引き戸があり、良い感じのくもり硝子になっている
引き戸をスライドさせると、正面に檜のお風呂。
お湯は入っていないが、いい香りがしている。
吐き出し口の上に魔石が付いているので、つい我慢できず触ってお湯を出してまった。
温度は42度に設定しているので、温度を調節する必要は無いんだよね。
結構な湯量で、あっという間に溜まってくる。
「八重子さんごめん!! もう我慢できない!!」
八重子さんの返答も待たず、急いで真っ裸になると、湯おけで頭からお湯をかぶって頭を洗った。
石鹸いらずの神水は本当に凄い!!
ベタベタしていた髪が洗いたてのようにしっとりしているよ。
何度もお湯を頭からかぶると、一気に湯船にドボン。
「うぃ〜っっ……」
色気のない声がつい出ちゃうよね。
いい温度で気持ちが良すぎる。
私がお風呂を切望していた事を知っている八重子さんは、さすがに何も言わなかった。
ありがたや~。
お風呂から上がった私は、自分の身体を見下ろして感動している。
別にプロポーションが良くなったとか、お胸が育ったとか言う訳じゃない。
お肌ですよ。
なんとお肌が艶々なんです!?
お湯に浸かっただけで汚れも無くなり、挙げ句に潤うなんて!?
高級石鹸や高級化粧水なんて問題外で、対象にするのもおこがましいくらいだ。
鼻歌まじりで着替えていると、八重子さんからお声が掛かりましたよ。
『私は構わないんだけどね? 困るのはカエデだし。けど一応忠告しておくよ。そろそろ作業の続きに取り掛かった方が良いんじゃないのかい?』
「そうだった〜。調理器具を創らないとまた生野菜と果物だけになっちゃう〜!?」
慌てて脱衣所を出て、ふと思いついた。
どんなに心にメモをしたって、元がおバカな私じゃすぐに忘れてしまうんだよ……。
だから紙と鉛筆を先に作ろうかな?
今後も役に立つだろうしね。
鉛筆の芯は、黒鉛で出来てるって昔聞いたけど、あれって要は炭だよね?
木があれば、紙も鉛筆も創れるわけだ。
消しゴムはさすがに無理。
あれはゴムか、プラスチック製のものだからね。
材料が思い付かないよ。
慣れてきた想像具現化をササッとやって、出来ましたA4のノート10冊とHBの鉛筆5本。
おお、さすが想像具現化さん、いい仕事をしてます……ん?
一人悦に入って喜んでいたら、ある事に気が付いた。
どうやって削る?
鉛筆削りなんか無いし、カッターやナイフすら無いよ?
とりあえず包丁で削るか?
いや、それは無いよね……。
まだ鉄を用意してないもんなぁ。
……ちぇっ、結局先に鉄創りから始めるしかないのか。
肩を落としてフラフラ外に出る私に八重子さんから声が掛かる。
『やっと作業する気になったのかい?』
「…うん」
『何だい? 急に元気がなくなって』
『自分のバカさ加減を痛感したんだよ……」
『今さらかい? もうどうしようも無いだろうに』
いくら本当の事でも、八重子さんの言葉が胸に刺さるよ……。
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