3 夢の続きだよね?
私は黒一面の暗闇の中を、どんどん下に落ちていく。
ただ不思議な事に、その速度は思いの外ゆっくりだ。
見上げると、彼は落ちている私に向かって手を伸ばしたようだけど、もうその手は届かない。
次の瞬間、彼の手の平から神々しい程の光が溢れ、私に届くと同時に、手にしていた水晶に吸い込まれる様に入っていった。
すると中の虹色の炎がメラメラと燃え上がり、やがてパチパチと音をさせ始める。
私が驚いて水晶を凝視した時、パリンッと小さな音を響かせそれは割れてしまったのだ。
そしてその炎が大きくなり、私を包み込む。
―――熱くは無いその虹色の炎に、私は不思議と恐怖を感じなかった。
むしろ、今まで感じた事が無いくらいに暖かくて気持がいい。
下に落ちていく感覚はそのままに、柔らかな虹色が徐々に体の中に吸い込まれ始めた所で、私は意識を手放したのだった―――。
* * * * * * * *
気が付くと私の視界には雲一つ無い、綺麗な青い空。
やけに大きな太陽らしきものが見える。
時間は9時とか10時とかくらいだろうか?
背中のゴツゴツした感触に慌てて起き上がると、そこは固められた土の上だった。
周りを見回すと、踏み固められた道の向こうに掘っ立て小屋? の様な建物が一棟。
そして朽ちかけた、3mは有りそうな丸太の囲い。
囲いの中は雑草一つ無い乾いてひび割れた土。
ざっと見渡した感じ、テニスコート2面くらいの広さ?
そんな中に私はぽつんと座っていた。
自分を見下ろすといつもパジャマ代わりにしている、中に重ね着された黒のスエット上下と、寝る時に履いているピンクのモコモコ靴下。
そして何故か愛用のルームシューズときたもんだ。
これも夢、かな?
首を傾げながら辺りをもう一度見回すが、人の居る気配は全く無い。
しかも、鳥のさえずりですら聞こえやしない。
うん、とりあえず落ち着こう。
まず、いつものように夢を見ていたんだよね?
で、水晶が落ちそうになって掴んだんだ。
なぜかそのまま落ちちゃって、彼と目が合ったけど……彼、驚いた顔してたよね。
そして水晶が割れて、虹色の炎が―――。
……変な夢だよねぇ。
一応、お約束として自分の頬を軽くつねってみたんだけど……。
何故か痛いんだよ。
イヤイヤイヤ、夢の中でも痛い時ってあるらしいし? こんな事が現実に起こるなんて有り得ない訳よ。
だからこれは夢で間違いよね?
うん、寝てみよう。
そう思って、もう一度横になって目を閉じる。
……。
……。
……。
「何で夢から覚めない訳!?」
ガバッと起き上がって、つい叫んでしまったのはしょうがない事だろう。
目を開けた先には、変わらず掘っ立て小屋が鎮座しているんだから。
「これって夢じゃないのぉぉっ!?」
我慢できずに張り上げた私の声。
その声に答える者は誰も居ない。
ねえ、八重子さん? 天国から見てくれていますか?
私、どうしたら良いんでしょうかね……。
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