2 落ちちゃうの?
気が付けばおばさん真っ只中の私だったが、この頃同じ夢を何度も見るようになった。
いや、同じというのも何だか違う気がする。
……うん、同じ種類の夢? というか、どんどん内容が進んでいるって感じが正しいかも知れない。
暗闇の中。
目の前に小さな亀裂が入り、柔らかな光が差し込む所から始まった。
それを「不思議な夢だなぁ」って思って見ている私。
次の日は、目の前の亀裂が徐々に大きくなり、誰かの話し声がボソボソと聞こえ始めたのだ。
良く聞き取れないが、誰かと会話しているのではなく、独り言の様な感じに聞こえる。
私は、数日続いたその夢をなぜか怖いとは思わなかった。
反対に好奇心がむくむくと顔をもたげ、「覗いたら何が見えるのだろう」って気になりだしてしまったのだ。
そんな夢を見続けて数日。
ついに亀裂の中を覗ける日が来た。
その時の亀裂は縦に15cm位。
中には一人の男性が居て、作業台に向かってブツブツ呟きながら何がを作っているようだった。
その様子を私は彼の右側から覗き見ているのだ。
しかし私の存在には、夢中で作業している彼は気が付かない。
もしかしたら、彼からは見えていないのかも知れない。
30代前後で、黒く艶やかな黒髪が背中まである、綺麗な顔立ちの男性。
彼の呟きも所々聞き取れる。
『……じゃ~、……さん達は~……』
『もう少し~……の方が~……ですよね~……』
何とも間延びした話し方で、見た目は良いのに酷く残念に感じてしまったのは言うまでもない。
それからも夢は続き、そのたびに亀裂は少しずつ大きくなっていった。
その間、彼は一喜一憂しながら何かを作っては作業台に置く。
そんな夢が1週間程続いたある日。
その日の夢はいつもと少し違っていたように思う。
亀裂は私が潜り抜ける事が出来る位大きく成っていたし、彼が何を言っているかもはっきりと聞き取る事が出来た。
手を伸ばせば彼に触れるほどの距離。
しかし夢とはいえ、盗み見ている様で少し居心地悪い。
『やっと出来ました~!! これは〜彼らが喜びそうですね~』
そう言って手にしていた何かを作業台の上にそっと置いた。
それは水晶の様な球体で、中には虹色に輝く炎がチラチラと揺れていてる。
こんな綺麗な物を私は見た事が無かった。
神秘的な虹色の炎に目を奪われていたその時、違う作業に取り掛かった彼の手が当たり、球体が作業台の端まで転がってしまった。
危ない!? 落ちちゃう!!
私はとっさに亀裂の中に手を伸ばし、その球体を掴み取った。
あれ、掴んじゃった……。
そう思うと同時に、彼の前に転がり出てしまったのだ。
え? 出られるの?
次の瞬間、更なる衝撃が私を襲う。
彼はそこに立っているのに、そこに有るはずの地面が無かったのだ。
結果、私の体は吸い込まれる様に落下し始めた。
「ぎゃわわわぁぁぁぁーっっ―――……」
嘘でしょう??? 私、落ちてるんですけど!?
これって夢だよね?
起きたらベッドから転がり落ちてるってやつだよね~!?
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