【一場面小説】ジョスイ物語 〜官兵衛、貴公子達の軍師となるノ段 其ノ壱
「無念、黒田がいたか。」長宗我部元親は、微かに口を僅かに歪め、長い睫毛を静かに伏した。囮とした植田城を攻めず、宇喜多秀家と軍監黒田官兵衛の軍勢は、悠然として阿波に向かったらしい。
因縁浅からぬ、あの宇喜多直家の嫡男八郎。今は秀吉が猶子秀家を名乗る若武者だが、官兵衛は秀家の軍師として四国の軍旅にある。小牧・長久手の合戦以来、秀吉は戦場に出てこない。武門にとって負け戦は深刻だ。世間の懐疑を逸らす如く公卿となり、関白家の争いにも介入していると仄聞する。秀吉は別の力を身に纏う積りだろう。
とまれ自分は武人、この戦を疾く終わらせる。先の戦で家康・信雄に一味した連中を虱潰しにして、連携の猶予を与えない。同時に大将の宇喜多秀家にも、上々の初陣を飾らせてやる。この間、矢鱈と「秀」の諱を与えては一門を殖やし、己が天下を固めようとする、主の涙ぐましい努力にも応えてやらねばなるまい。