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約束と契約3  作者: オボロ
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#8 梅田奨くん



マリア達が妖の世界に入って来た場所は、妖たちが集まり、賑わっている通りから外れた路地裏の奥の奥の奥だった。

小さなウサギの女の子の後を追い、入り組んだ路地を曲がりに曲がって、マリア達も妖たちで賑わう大通りまで出て来たが、小さなウサギの女の子は、たくさんの妖たちの中に紛れてしまい、見失ってしまった。

マリア達が追いかけていたウサギの女の子は、つとむくんが追いかけていた小さな妖ではなかったが、奨くんも同じように、妖たちが賑わうこの通りの近くまでは来ただろうと、マリアは思った。

そして、見たことも無いたくさんの妖たちを目の当たりにして、驚いた奨くんがどこかに隠れてくれていたらいいと、マリアは願った。


マリアは、奨くんは帰ろうとして、もう一度、路地裏の奥の奥の奥へと戻ったのではなく、もっと身近な隠れ場所を探したのではないかと、考えた。

もしも、奨くんが、狭い路地裏の奥の奥の奥へと、来た道を戻って来ていたのなら、マリア達が来た時、途中で出会っていてもおかしくないからだ。

隠れられる場所は途中に無かった———と、マリアは断言出来た。



マリア達は、賑わう通りから離れ、妖たちの姿が見えない方、見えない方へと、移動を始めた。


移動していて、マリアには気付いたことがあった。

妖の世にも、暮らしの格差はあるらしいということだった。


賑わう通りにあるお店で買い物したり、遊んだりが出来る妖。

賑わう通りにあるお店で働いている妖。

働く妖を雇っている妖もいるはず。

賑わう通りにあるお店以外の場所でも、働いている妖は居るようだった。


人の世とは違う、しかし、人の世とよく似た世界。


———あちら側(妖の世)———


不思議な感じがした。




「あの小屋なら隠れられるかも…。」


マリアは、木造長屋の近くにある畑の傍に、ぽつんと建っている小屋を見つけた。

長屋には、貧しい妖が暮らしているようだった。

貧しくても、妖が生きて行くのには、何の問題も無いのだろうが、奨くんを見つけたなら、売り飛ばすぐらいのことは考えるだろう。

人間の子供が居たと、妖たちが騒いでいないのは、まだ見つかっていないからだと、マリア達は思った。




ガタッ

ガラッ…ガラッ…


そっと戸を開けた。

音を聞きつけた妖が、ここに来ないとも限らないので、気をつけなければならなかった。

ゆっくりと戸を開け、中を覗いた。

暗い小屋の中は、視界が悪く、良く見えなかったが、人の気配があるのを、マリアは感じた。

妖ではない、人間の子供の気配だと、マリアは直感した。


「奨くん?いる?」


声を掛けてみた。


ガタッ


音がした。

動いたらしい。


ポッ!


青白い小さな炎が、凪の手の平に現れ、暗い小屋の中を照らした。

農作業用の道具を入れておく小屋だったと、明るくなって、初めて分かった。

くわや斧、鎌や一輪車、スコップやバケツなどが置いてある。

一輪車の陰に隠れていたのは、写真の男の子に間違いなかった。


「奨くんだね?だいじょうぶ?けがとかしてない?立てる?」


マリアがしゃがんで顔を覗き込むと、奨くんは、こくんと頷き、ゆっくりと立ち上がった。

ぱっと見た限り、怪我はしていないように見えた。


「お母さんが心配してる。帰ろう?」


マリアがにっこりと笑い、奨くんの頭を撫でると、奨くんは、強張った顔に、更に力を込めた。

泣くのを必死に堪えているのだと、マリアには分かった。







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