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約束と契約3  作者: オボロ
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#7 妖の世



ウサギの女の子は、小走りにちょこちょこと走っていた。

マリアと凪は、ウサギの女の子の後を追っていた。

小さなウサギの女の子は、身長が30㎝も無いだろう。

そんな小さな生き物を追いかけるマリアと凪は、少し前かがみになっていて、周りから見たら不審人物に見えていたかもしれない。

何をしているのだろうかと、不思議そうに見る人は、一人や二人ではなかったが、マリアは、絶対にウサギの女の子から目を離さないようにしていた。


ウサギの女の子は、階段に向かっていた。

階段に着くと、ピョンピョン跳ねながら階段を下りて、踊り場を曲がった。

そして、そこから2階へ下りる階段には向かわず、そのまま壁に向かって行った。

ウサギの女の子が近づいた壁際には、渦巻き状に歪んでいる空間があった。

ウサギの女の子が入れるくらいの小さな歪みだった。


「あれが入り口だ。」


凪が言った途端、ウサギの女の子は、渦巻き状に歪んでいる空間に、ピョンと跳ねて飛び込んだ。


「消える前に入れ!」


凪は叫ぶが、マリアの速度は遅くなった。

大きさが違い過ぎて、入れるとは思えなかった。

だが、マリア達が近づくと、渦巻き状の歪みは大きくなった。


「行くぞ。」


躊躇ためらうマリアの背中に腕を回し、凪はマリアを歪んだ空間の中へと促した。







「………。」

「………。」


渦巻き状に歪んだ空間の中に入ると、マリア達は、すぐに新たな場所に出ていた。

振り向いても、そこに渦巻き状に歪んだ空間は無かった。


「走れ!」

「……っ!」


マリアは凪の声にハッとして、走るスピードを上げた。

ウサギの女の子は、もうずいぶん先を走っていた。

歩幅が違うので、見失いはしなかったが、幾つもの角を曲がった。

そこに建ち並んでいる建物が、何の建物なのかは分からなかった。

分かることがあるとしたら、あちら側と呼ばれる妖の世界は、マリア達が暮らしている世界と、あまり変わりがないということ。

ただし、文明は大昔のまま、止まってしまっているかのようだった。

建物は木造のモノしかないし、電信柱も信号も見当たらなかった。

電灯の代わりに提灯がぶら下がっていた。

そもそも電気が通っていないのかもしれなかった。

しかし、妖たちの中には、真新しいデザインの服を着てるモノが居た。

着物姿のモノも居れば、洋装姿のモノも居る。

煙草を咥えているモノ、葉巻を咥えているモノ、パイプを咥えているモノ、キセルを咥えているモノ———と、たばこ一つにしても様々だった。

生きている人間ではないかと思うほど、人に近い姿の妖も居れば、動物の姿でありながら、人のように二足歩行をしている妖もいた。

とても小さな妖も居れば、物凄く大きな妖も居る。

七曜神楽の際、黒石神社に現れた妖たちが、ごく一部であることが分かった。




「………。」

「………。」


マリアと凪は、物陰に隠れて、妖の世界の様子を窺っていた。

目の前には、妖たちで賑わう大通りがあった。

マリア達をここまで連れて来てくれたウサギの女の子は、たくさんの妖たちの中に入ってしまい、見失ってしまった。

ここに入って来てしまったつとむくんも、妖たちの姿に驚いて、身を隠してくれていたらいいと、マリアは願わずにはいられなかった。


「………。」


自分だったら、どこに隠れるだろうかと、マリアは考えてみた。


たくさんの妖たちから離れたところ。

妖があまり来ないだろうと、思われるところ。

すっぽりと体が入って隠れられるところ。


帰ろうとして、来た道を戻ることも考えた。

だが、あの狭い道では、妖に出くわしてしまったら、逃げ場がない。

実際、マリア達がここまでくる間に、奨くんに出会わなかったので、戻ったと考えるのは、難しかった。


「やっぱり、ここから離れていて、あまり妖が近づかない小屋の中……とか。」


マリアの呟きに、凪が答えた。


「なるほど。探してみよう。絶対にわたしから離れるなよ。」



マリアと凪の、奨くん捜索が始まった。






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