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約束と契約3  作者: オボロ
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#6 あちら側の住人



あちら側への入り口は、あちら側の住人がこちら側へ来る時と、あちら側の住人があちら側へ戻る時に現れる。

つまり、こちら側の住人に作り出すことは出来ない。

そして、あちら側への入り口は、あちら側の住人が通る時にだけ現れるので、現れている時間はごく短いのだと、凪はマリアに説明した。


「今回、少年が追いかけていたのは、あちら側の住人で、タイミング悪く、一緒にあちら側へ入ってしまった———と、考えた方が良いだろう。」

「じゃあ、すぐに追いかける?」


マリアは聞いた。

あちら側がどんな場所なのかは分からないが、榊原は『時間が勝負だ。』と言っていたし、凪も『行くならば今日だ。』と言っていた。

しかし、凪は首を横に振った。


「あちら側への入り口は、その時々で場所を変えるし、あちら側の住人でなければ出現させることは出来ない。」

「じゃあ、どうするの?」

「あちら側の住人を探す。」


マリアと凪は、ショッピングモール内にまだ他にも居るであろう、あちら側の住人を探すことになった。

あちら側の住人をることが出来ない榊原とは、ここで別れることになった。


つとむくんを連れ戻すことが出来なくても、夜明けまでには、必ず一度、戻って来てください。奨くんの身も大切ですが、あなた方の身も大切なんですからね。万が一、夜が明けても戻らなかった場合、別の七曜神社に応援を頼み、あちら側へ向かっていただきます。いいですね?」


榊原は、念を押すように言ってから、マリア達と別れた。

まるで、小さな子が言う『おかあさんに言い付ける』みたいな言い方に、マリアは不満を感じた。


「別の七曜神社に応援を頼むと、どうなるの?」


マリアは、遠ざかる榊原の後ろ姿を見詰めながら、凪に聞いた。


”おかあさんに言い付ける” は、イコール ”おかあさんに叱ってもらう” だ。

では、”別の七曜神社に応援を頼む” は、イコール ”別の七曜神社に叱ってもらう” ?


それもどうなんだろう———という感じだ。


「単独で解決できるだろうと依頼された事件を、単独では解決することが出来なかった———ということだ。これは、恥以外の何ものでもない。何があろうと夜明けまでに戻らなければ、黒石神社の恥になるぞ———と、あの男は、案にわたし達を脅したという訳だ。全く、曲者ぞろいだよ、あそこは。行くぞ。」


凪は、ため息交じりに説明して、ショッピングモール内を歩き出した。


なるほど、”別の七曜神社に応援を頼む” は、イコール ”黒石神社が恥をかくぞ” だったらしい。

ようやく謎が解けた。


「あ、待って。」


マリアは、急いで、凪の後を追った。






ショッピングモール内は、夕方から客層が変わって来た。

親子や学生が多かった昼間に代わって、職場帰りのOLやサラリーマンが多くなった。


「なかなか居ないね。」


マリアと凪は、3階をはしからはしに向かって歩いていた。


あちら側の住人とは、ひと言で言ってしまえば、“妖”だ。

少しばかりの説明を加えれば、あちら側に棲んでいる“妖”だ。

普段はあちら側に居て、用がある時のみ、こちら側へやって来るのだと言う。


『妖にも色々いて、あちら側に棲んでいるモノも居れば、こちら側に棲みついているモノも居る。あちら側への入り口は、あちら側に棲む妖にしか出現させられない。多分、あちら側の住人は、見れば一目で分かるだろう。あちら側の住人は、目的があってこちら側へ来ているわけだから、目的の場所まで一目散に向かうだろうし、目的を済ませばさっさと戻ろうとするはずだ。脇目も振らずに走っている小さな妖を探せ。』


そう言われて探してみるものの、それらしき妖には出会わなかった。


「下に降りてみようか。」


3階の端から端までを一通り歩いたマリアと凪だったが、それらしき妖には出くわさなかったので、場所を変えることを考えた。

あちら側の住人であるなら、2階だろうと1階だろうと、入り口を出現させることは出来るだろう。


「あぁ、そうだな。」


凪も賛成して、階段がある場所に向かっていると、あちら側の住人らしき妖の姿が、突然、マリアの視界に入った。


「………っ‼」


お菓子や小物を売っている可愛らしいお店の中から、色とりどりの金平糖が入った小瓶を抱えてスキップしながら出て来たウサギの顔をした女の子の姿を、マリアは発見した。


「居た!」


凪に言い、マリアはウサギの女の子を追いかけた。

赤い花柄の可愛らしいピンク色のワンピースのお尻部分には、ウサギ独特のふわふわした尻尾があった。

赤いバックを斜め掛けにしている。

こちら側へお出かけに来て、目的のモノを手に入れたと浮かれ、スキップをしているのだろう。

一目散に、あちら側へ戻ろうとしていなかったことは、幸いだった。


「待って。話を聞いて。この子を見なかった?」


マリアは回り込んで、ウサギ顔の女の子の妖の前に出た。

ウサギの女の子は驚いて立ち止まったが、すぐに方向転換しようとした。


「いや、待て。話を聞くだけだ。何もしない。」


凪も回り込んで、ウサギの女の子の前を塞いだ。

マリアは、つとむくんの写真を、ウサギの女の子に見せ、もう一度、聞いた。


「この男の子、見たことある?」


こちら側でも、あちら側でも、見覚えがあればいいと思ったのだが、写真をじっと見たウサギの女の子は、首を横に振った。

仕方なく、マリアはウサギの女の子に頼んだ。


「この男の子、間違ってあちら側へ入ってしまったらしいの。だから、わたし達をあちら側へ連れて行って欲しいの。」


すらすらと、言葉が出て来たのは不思議だった。

しかし、凪が言うよりも、マリアが言った方が、怖がれないのではないかと思った。

そして、それは正解だったようだ。

ウサギの女の子は、返事こそしなかったが、ちょこちょこと走り出した姿は、マリア達から逃げているようには見えなかった。


「追いかけよう。」


マリアと凪は、ちょこちょこと走るウサギの女の子の後を追った。







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