#4 消えた男の子の捜索
「今、警察が来てるんだって?」
神社から戻って来たノラが、茶の間の方を見ながら言った。
情報源は、B・Bだ。
B・Bは、わざとマリアに話しかけた榊原が、マリアに関係の無い話をしに来たとは思えず、ノラに偵察を頼んだのだった。
「今、ドドが話の内容、聞いているよ。」
ドドと一緒に、今日の料理当番であるバトが言った。
ドドは、琴音のお茶を持って行ったまま、戻って来ていなかった。
『お茶を持って行ったら、そのまま廊下で息を潜めて、中の話を聞いて来て。』
バトが頼んだ。
1人で先に戻って来た凪が、客用の湯飲み茶わんの用意をして、先に客人とマリアと自分のお茶を用意するように言った。
『琴音の分は、琴音が戻って来てからでいい。』
これは何かある———と、バトは感じ、茶の間の中でされる話は、自分達が知るべき話だと判断した。
夕食の下ごしらえぐらい、バトは1人でも平気だが、ドドではそうはいかない。
必然的に盗み聞きは、ドドの役目になった。
「………。」
ドドは、茶の間の前で息を潜め、小さくなって、中の様子を窺っていた。
中では、繰り返し映像を見ているところだった。
会話はほとんどない。
《交代するよ。ここまでの報告、ノラにして来て。》
夕食の下ごしらえを終えたバトが、思念でドドに交代を申し出た。
ドドはゆっくりと後退して、ノラの所へ向かった。
「どんな話していた?」
戻って来たドドを見て、ノラは待ちきれないとばかりに聞いた。
ドドは、聞いていた茶の間の中の会話を、思い出しながら話した。
「うんとね、警察の人は、マリアに捜査の依頼をしに来たって言ってた。男の子が居なくなったんだって。で、その時の映像をマリア達に、今、見せてるところ。なんかね、消えちゃったみたいだよ。まるで神隠しです——って、警察の人が言ってた。」
「ふーん。」
ノラは、ドドの話を頭の中で整理した。
・男の子が居なくなった。
・神隠しみたいに消えてしまった。
・警察は、その消えた男の子の捜査を、マリアに頼みに来た。
「なんで、マリアに頼むんだろう……」
ノラは不思議に思った。
マリアには奇才があり、黒石神社の次期宮司に決まっているが、ただの高校生であることに変わりない。
警察が行方不明者の捜索依頼をする相手としては、相応しいとは思えなかった。
「さぁ……」
ドドにも分からないので、ドドは首を傾げるだけだった。
「……?どうしたの?」
慌てた様子で戻って来たバトを見て、ノラは聞いた。
「話が終わった。今から、ショッピングモールへ行くらしい。」
バトは、自分達の存在を知られないようにする為、ノラを連れて、台所の中の奥の方に入った。
外国人の子供が何人もいると、警察に知られるのはまずいと思ったからだった。
「ドドは、お茶下げて来て。ついでにマリアの様子も見て来て。」
バトは、茶の間にドドを向かわせてから、ドドが離れた後の茶の間の中の会話を、ノラに話した。
「今日の午後1時、ショッピングモールに母親と買い物に来ていた男の子が行方不明になった。男の子の行動は、ショッピングモール内の防犯カメラに映っていて、何かを追いかけていたみたいだ。でも、途中で姿が消えた。神隠しにあったみたいに。警察は、消えた男の子は“あちら側”に迷い込んでしまったのではないか———という見解をしていて、マリアには、“あちら側”へ行って、その男の子を連れ戻して来て欲しいって、頼んでた。凪も琴音も断らないし、マリアを止めようともしなかった。時間が勝負だとか言って、今から男の子が消えたショッピングモールへ行くらしい。」
「なんだ、それ?——っ‼」
折角、バトが小声で話しているのに、話の流れに納得がいかないノラは、荒げた声を出した。
バトは、慌ててノラの口を塞いだ。
「しっ!聞こえちゃうよ。」
「突然、お伺いしまして、すみませんでした。失礼します。」
玄関から、警察の人だろう男の人が挨拶している声が聞こえた。
「じゃあ、おばあちゃん、行ってきます。」
「行ってまいります。」
マリアと凪も、一緒に出るらしかった。
「あぁ。頼んだよ、凪。マリア、無理はしないでね。」
琴音が見送って、しばらくすると、玄関の扉が閉まる音がした。
「………。」
琴音は気が付いていた。
ドドとバトが、茶の間の前で、聞き耳を立てていたことを。
B・Bと使い魔達は、最近、更にマリアを気にかけるようになった。
絆が深まれば深まるほど、大切に思う気持ちも深くなるもの。
大切に思うからこそ、気にかけるようにもなるし、心配もするのだ。
「ふふふ…。いい傾向だ。」
台所から、こちらの様子を窺っているバトとノラの気配を感じて、琴音は、密かに笑みを浮かべた。