#35 平和が一番
キーンコーンカーンコーン
「はい。終了です。一番後ろの人、解答用紙を集めて。」
3日間あった期末テストが、全て終了した。
「うーん、終わったぁ。」
一番後ろの席の生徒に解答用紙を渡したマリアは、ようやくテスト勉強から解放されたことに安堵し、大きく伸びをした。
「月城さんのお弁当、今日もメッセージ入りなんだね。」
津谷美羽が、広げたマリアのお弁当を見て、言った。
マリアのお弁当の中には、”ガンバレ”と、ハムで作った文字が並んでいた。
マリアの今日のお弁当は、おにぎり2個と、卵焼きと小さなハンバーグとサラダだ。
野菜サラダの上に、”ガンバレ”というメッセージが、ハムで作られていた。
「中間テストの時もそうだったよね?」
沢井萌々は、サンドイッチを一口食べて言った。
「お弁当にメッセージなんて、なんか、大切にされているって感じ、するよね?」
マリアは、嬉しくなった。
「うん。大切にされているって、わたしも思う。」
嬉しくて、誇らしげに、マリアは言った。
バトは、使い魔の中では、一番、料理が上手くなった。
昔から手先が器用で、細かい作業が好きなんだと、他の使い魔達は言っていた。
使い魔達は、全員、いろいろなことに興味を持ち、たくさんの知識を得ていた。
様々なことに挑戦し、その中で自分に合ったモノを探していた。
バトは、料理が自分に合うと、思ったのだろう。
だから、料理を追求し、その腕を磨いたのだろう。
でも、メッセージを入れてくれるのは、マリアのことを思ってのこと。
これを、大切にされていると思わずして、何を大切にされていると思うのか。
バトだけではない。
クロにもノラにも、ヴィゼにもドドにも、B・Bにだって、マリアは大切にされていると、自信を持って言えた。
「ねえねえ、夏休み、一回ぐらい3人で遊ばない?月城さん、日本に来て初めての夏休みでしょう?3人でどっか行こうヨ。ねぇ、津谷さん、いいでしょ?」
二つ目のサンドイッチを食べ終えて、イチゴ牛乳を飲みながら、沢井萌々は言った。
津谷美羽に許可をもらうあたり、津谷美羽は沢井萌々の母親的役目になっていると、マリアは思う。
「まぁ、そうね。一回くらいはいいかもね。」
津谷美羽は、少しだけ考え、すぐに了承した。
沢井萌々も、津谷美羽も、マリアが転入したのが2学期からだったので、日本の夏休みは初めてだと思っているようだった。
しかし、実際には、マリアは7月にはもう日本に来ていて、日本の夏は経験している。
それでも、日本の高校に入り、2人と出会ってからは、初めての夏休みだし、B・B達とも出掛けることが出来るかもしれないと考えたら、マリアは、急に夏休みが楽しみになった。
マリアがやってみたいこと。
一つは、黒石神社の盆踊り。
昨年は、B・Bたちのこともあり、盆踊りの輪の中には入れなかった。
二つ目は、みんなで遊びに行くこと。
津谷美羽や沢井萌々とは、もちろんだが、凪やB・B、使い魔達とも、どこかへ遊びに行きたかった。
「でも、勉強会の方が必要かもね。」
「?」
「え?」
津谷美羽の口から続けて出て来た言葉に、マリアと沢井萌々は、首を傾げた。
テストは、今日で終わりだ。
なぜ、夏休みに勉強会が必要なのだろう?
「沢井さん、あなた、1人で宿題全部を片付けられる自信、ある?」
津谷美羽は、食事の手を止め、沢井萌々の顔をしっかりと見て、聞いた。
マリアは、訳が分からず、きょとんとしていたが、沢井萌々は、すぐに慌てて首を横に振った。
「ありません。お願いします。」
津谷美羽は、よろしいと言わんばかりに頷き、今度はマリアを見て言った。
「たぶん、月城さん、驚くと思うわよ。日本の学校は、夏休みの宿題の量が、半端じゃないの。」
「………?」
その時には、まだよく理解できていなかったマリアだったが、夏休みに入る頃には、津谷美羽が提案した勉強会に、ぜひとも参加させて欲しいと、マリア自ら申し出ることになるのだった。
これで「約束と契約3」は終わりです。
感想など頂けたら、大変喜びます。
ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました。




