#34 あっという間と思う訳
「いってきまーす。」
学校に向かうマリアが境内を通って行く。
手水舎の傍を掃いているB・Bを見つけて、元気に手を振るマリアに、B・Bは、掃く手を止めて、手を振った。
金石神社との合同調査から2週間が経った。
今日からマリアは学期末テストなのだと、バトが言っていた。
中間テストの時に作った励まし弁当を、マリアが喜んでくれたから———と、今回も”がんばれ”と、マリアを励ますようなお弁当を作るんだと、バトは張り切っていた。
バトは料理の腕を随分と上げた。
B・Bは、境内を掃く手を止めたまま、空を見上げた。
今日も暑くなりそうだ。
日本に来てからの1年間は、あっという間だった。
初めて日本に来た時、ここは夜中だった。
時差も分からず、マリアよりも先に来てしまった。
神域への立入りが許されず、しばらくの間、森の中での寝泊まりが続いた。
『人が思いを込めて作ったモノには「力」がある。』
初めて、その言葉の意味を知ったのも、森の中だった。
あの時の感動は、今でもよく覚えている。
泣きたくなった。
込み上げて来る感情が涙となって溢れて来そうだった。
心と身体が温かくなった。
気温は高く、暑かったはずなのに、温かいと思うことが不快ではなく、心地よかった。
あれは、不思議な体験だった。
マリアが学校に通うようになった頃、ようやく黒石神社の境内に入ることが許された。
しかし、神殿に入ることは、なかなか許してもらえなかった。
マリアに触れても、煙は出ないし、痺れることもなくなったというのに、神殿の見えない壁は、いつまでも消えてくれなかった。
入って来るなと、言われているようで、辛かった。
黒石神社の神にも拒まれている。
その事実が辛かった。
黒石神社の神にも受け入れてもらえないかもしれない。
受け入れてもらえる日は来ないのかもしれない。
そう思い悩んだこともあった。
しかし、それは解決された。
マリアの七曜神楽で浄化され、黒石神社の神である御弥之様が新しい依り代を与えてくれた。
そして、神殿に入れることが許された。
ようやく、認めてもらえたような気がした。
大掃除をして、新年を迎えた。
新しい年を迎えることの意味と、自分が黒石神社でするべきことが、なんとなく分かった———ような気がした。
与えられた居場所が心地よいと、今は本当に思っている。
マリアの為になりたい。
この神社に尽くしたい。
この居場所を失いたくない。
日本に来てからの一年が、あっという間だったと思えるのは、今、自分が幸せだと思えるからに違いないと、B・Bは思い、頬を緩ませた。




