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約束と契約3  作者: オボロ
33/35

#33 合同調査で得たこと




「うわっ!何なんですか?何なんですか?」


ネズミ男が作ってくれた入り口のお陰で、マリア達はこちら側に戻って来ることが出来た。

出て来た先は、入った場所と同じ、雑居ビルの前だった。

何も無いところから次々とマリア達が現れるのを見ていた小松は、腰を抜かしていた。


「こ、子供です…、が、外国人です。か、か、柿坂さん、外国人の子供が、こ、こんなにたくさん……、こ、これって…、これって……」


外国人の子供を見たことが無いの?———と、突っ込みたくなるような驚き方だった。


「ご心配をおかけしました。柳梗平さんの事件、解決しました。もう大丈夫です。原因は処理してきました。」


小金井佑介は、帰りをずっと待っていた柿坂に、礼儀正しく報告をした。

柿坂は、小金井佑介の報告を聞いて、嬉しそうに言った。


「ご苦労様でした。皆さん、ご無事で良かった。本当に良かったです。柳君は榊原が病院まで送りました。今回も何事も無く無事に終わって良かったです。本当にありがとうございました。報告書は、後日、出来ましたら、ご連絡ください。こちらから伺わせていただきます。皆さんも、ご苦労様でした。車で送ります…。えっと…、全員を一度には無理ですが……」


余りの嬉しさに、人数が増えていることを失念していて、気付いた柿坂は、うろたえた。

増えているのが全員、外国人であることには一切触れず、疑問に思っている様子も無かった。


「大丈夫です。わたし達はわたし達で帰れますので、小金井くんたちを送ってください。お気遣い、ありがとうございます。お疲れさまでした。気にせずに行ってください。わたし達は、その後、すぐに帰りますので。」


マリアは、柿坂の申し出を丁重に断った。

今から車で送ってもらうより、凪に乗って帰った方が断然に早いからだ。

だが、それを言うつもりは無かった。

そして、柿坂は理由に見当が付いているようだった。


「そうですか?じゃあ、小金井君たちは、車へ。小松!車だ!ぼーっとしているな!では、月城さん、皆さん、お気をつけて。おやすみなさい。」


柿坂は、小金井佑介と沙也を車へと促し、未だパニックから立ち直れていない小松に渇を入れた。


「はい。ありがとうございます。おやすみなさい。小金井くん、沙也さん、お疲れさまでした。おやすみなさい。」


マリアは小金井佑介と沙也にも挨拶をした。


「今日は本当にありがとうございました。おやすみなさい。」


沙也は、マリアと凪、B・B達に向けて、丁寧に頭を下げた。

小金井佑介は、凪の正面に立ち、頭を下げた。


「今回のご協力、本当にありがとうございました。」


そして、マリアを見て、言った。


「次からは、佑介でいいから。お疲れ。おやすみ。」


言った後は、プイッとそっぽを向いて、柿坂の車へ向かってしまった。


「沙也、行くぞ。」


「はい。」と言って、小金井佑介の後を追った沙也は、とびっきりの笑顔だった。


「ツンデレ?」

「違いますよ!」


車のドアを開けて待っていた柿坂はニヤニヤしていて、小金井佑介は、真っ赤な顔をして言い返していた。




「じゃあ、わたし達も帰りましょう。」


小金井佑介と沙也を乗せた車が見えなくなるまで見送ってから、マリアは言った。

なにはともあれ、無事に終わった。


「わたし達は先に戻っている。」

「じゃあね、マリア。」

「先に帰って待っているよ。」

「気をつけて帰って来なよね。」


マリアは、大きな白い狐の姿になった凪の背に、B・B達も一緒に乗って帰るものと思っていたのだが、B・B達は、あっさり言って、あっという間に姿を消してしまった。


「………。」


残されたマリアは、凪と二人きりになってしまったことに気付いて不安になった。

凪の怒りが、もう収まっているのか、分からなかった。



「何をぼーっとしている。帰るぞ。」



マリアの背に、凪が声を掛けた。

凪は、もう大きな狐の姿になっていて、マリアが背に乗るのを待っていた。


「あ、うん。帰ろう。」


マリアは、恐る恐る凪の背に乗った。

マリアが背に乗ったのを確認すると、凪は地面を蹴って、空高く跳ね上がり、我が家に向かって空を翔けた。



「………。」

「………。」


マリアは何も言わなかった。

凪も何も言わなかった。

だが、凪の背に掴まり、風を受け、過ぎ去る景色を眺めているうちに、凪は、もう怒っていないのだと、マリアは思った。


『お前は、わたしを心配するが、お前の方が、わたしを心配させているんだ。二度とするな。わたしを置いて行くなど、二度と許さない。』


あれが、凪の怒りの全てだったのだろう。

理由がなんであれ、置いて行ったことを怒っていた。


もう置いて行かない。

凪が居なくても、どうにかなるとは、もう思わない。

それよりも、やるべきことを見つけた。



「強くなるからね。もっともっと、戦えるようになるから……。」


マリアの小さな呟きに、凪も呟くように応えた。


「ほどほどでいい。無理はするな……。」

「うん……。」


マリアは、凪の背に顔をうずめた。



今回の合同調査で、マリアは色々なことを知った。


文化祭であった生意気そうで感じの悪い男の子が、金石神社の次期宮司だと知った。

マリアよりも年下なのに、すでに次期宮司としての役目を果たしていた。

神使は不死ではないことを知った。

沙也が神使になる前、金石神社の神使が亡くなっていた。

凪も、死ぬことがあるということだ。

しかし、それを心配して、凪を庇えるほど、今のマリアに発揮できる奇才は無い。

だからこそ、必要だと思った。


奇才を磨くこと。

奇才以外の力を身に付けること。

妖というモノ達を知ること。

七曜のこと。

七曜に与する神社のこと。


やらなければいけないことが、いっぱいだ。

だが、得たものもあった。


B・B達と、力を合わせて戦うことが出来た。

信頼関係はあると、確信できた。

金石神社の次期宮司である小金井佑介と、少しは打ち解けたのではないだろうか。

次に会った時は、「佑介くん」と、呼んでみよう。


「………。」


柳くんは、どうなるのだろう。


ふと、マリアは思った。

柳梗平は、お嬢の正体を、その目で見てはいない。

百合の花のようだとまで言っていたお嬢が、実は巨大なオオジョロウグモの妖だったと知らされて、実物も見ずに、それで諦めることは出来るのだろうか?

だからといって、あの姿を見せるべきだったとは思わない。

あの姿を見てしまったら、二度と立ち直れないかもしれない。

だから、どうすることも出来ない。

何も出来ない。

時間が解決してくれると信じるしかない。


マリアは、願うことしか出来ない自分を、無力だと思うのではなく、ヒトの力を信じているのだと、思うことにした。


「………。」


そして、いつの間にか眠っていた。




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