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約束と契約3  作者: オボロ
32/35

#32 即席救助隊の結末



「おのれぇー!!!」


小金井佑介が思念で作り出した薙刀で、巨大なオオジョロウグモとなったお嬢の巨大な足を1本、半分から下の部分をはらって灰にしたことで、バランスが取りずらくなったオオジョロウグモは怒り狂い、地面が揺れるほどの迫力ある声を、辺りに響き渡らせた。



「……⁈」

「なに?」


凪と沙也は、妖の世に足を踏み入れた途端、聞こえて来た大声に驚いて、すぐに声が聞こえてきた方向に目を遣った。


うっそうと茂る森の中、木々の隙間から見えたのは、舞い上がっている土埃。

付近にある木々のあちらこちらに、蜘蛛の糸が張り巡らされていた。


ドッスーン!!!

「——!」

「——‼」



「!」

「!」


何かが地面を叩きつけている音と、誰かの叫ぶ声が、地響きと共に聞こえた。

凪と沙也は走り出した。

カエル男の首根っこなど、掴んでいる場合ではなかった。


「……っ!」

「………なっ!」


木々の間を走り抜け、見えた光景に驚いて、凪も沙也も、一瞬、息を止めた。


ドッスーン!!!

ドッスーン!!!

ドッスーン!!!


思っても居なかった大きさのオオジョロウグモに、マリア達が襲われている。

イヌワシのB・Bとカラスのクロが、目の前を飛び回り、必死に気をらそうとしているようだが、オオジョロウグモの巨大な脚は不格好な動きで、不規則な攻撃をしてくるので、マリア達は、思うように攻撃できず、だたひたすら逃げ回っているだけだった。


「マリア!そっちはダメだ!」

「薙刀!下に向けるなよ!ぼくを殺す気か!」

「足、そっち向かってる!」

「邪魔だよ!早く行けよ!」

「弓引く暇がないのよ!どうにかしてよ!」

「蜘蛛の急所ってどこなんだよ!」


連携は取れていないが、上手い具合に逃げている。

文句を言いながら、バタバタと、まるで遊んでいるみたいに見えた。


「………。」


これが自分を置いて行った結果かと思うと、凪に怒りが湧いた。


「凪様、落ちついてください。」


沙也が慌ててしまうほどに、凪は怒りに満ちていた。


「いい加減にしろぉ!!!」


「ギャーッ!!!」


「……⁈」

「……⁈」

「……⁈」

「……⁈」

「……⁈」

「……⁈」


突如、現れた白い大きな狐が、オオジョロウグモに襲い掛かった。

オオジョロウグモも巨大ではあるが、大きな白い狐の前では、成す術も無かった。

大きな牙も爪も、狐の牙と爪には敵わなかった。

大きな狐の凪は、じたばたと動くオオジョロウグモの脚を一撃で砕き、体を踏みつけ動きを封じた。

そして、マリアと小金井佑介に向かって叫んだ。


「2人ではらえ‼」


「うん!」

「はい!」


マリアは弓を、小金井佑介は薙刀を構え、オオジョロウグモに向けて光を放った。

2人の放った光は重なり、更なる扇状を作って大きくなり、オオジョロウグモの体を丸ごと全部、覆った。


「ギャア———ッ!!!」


オオジョロウグモの体から炎が上がり、断末魔の声が響いた。


「………。」

「………。」


マリアと小金井佑介は、オオジョロウグモが焼けて灰になるのを、呆然としたまま眺めていた。


あのままだったらダメだった。

倒せる状況にはならなかった。


「佑介さん!」


沙也が小金井佑介に抱きついた。


「よかった。怪我は無いですか?どこも痛くはないですか?」

「うん。大丈夫だよ……」



「………。」


沙也と小金井佑介の2人の様子を眺めていたマリアの前に、ヒトの姿に戻った凪が立った。


「………。」


気配に気づき、マリアは凪を見上げた。

凪は、怒った顔をしていた。


「お前は、わたしを心配するが、お前の方が、わたしを心配させているんだ。二度とするな。わたしを置いて行くなど、二度と許さない。」

「うん……ごめん……。」


マリアは、素直に謝った。

涙が出そうだった。

凪の身を案じても、凪の身を守ることなど、今のマリアには出来そうもなかった。

凪の手を借りなければ、何も出来ないことを、今、マリアは思い知ったところだった。


なにが、ちゃちゃっと祓ってくるだ。

身の程知らずもいいとこだ。

あのまま、凪が助けに来てくれなかったら、きっと全滅していた。

誰も助からなかった。


「ごめんなさい……。」



「あんま、怒るなよ。」


クロが、遠慮がちに助けに入った。


「ま、怪我はしていないわけだから、ね?」

「そうそう、無事であることがなりよりだよね。」


ヴィゼとノラも、マリアを庇って口を挟んだ。


「わたし達が、もっと役に立てれば良かった。すまない、マリア。今後は、もっと役に立てるように、力をつける努力をしよう。約束する。だから、もう自分を責めるな。」


B・Bは、マリアの傍へ行き、身をかがめ、顔をのぞき込み、なぐさめるように言った。


「うん。ありがとう、B・B。」



「………。」


途端、凪の眉間に皺が寄った。




「あの……、ありがとうございました。」


奥の方から声がした。


すっかり忘れていたが、ネズミ男の源治だった。

源治の隣には、ネズミ顔の女性が居て、2人の傍には。ネズミ顔の子供が3人居た。


「お嬢を倒してしまうなんてすごい!驚きました!家族は無事です!助けてくれて、本当にありがとうございました。お礼に人の世への入り口を作らせてください。」


この申し出はありがたかった。

オオジョロウグモとの命がけのドタバタで、帰りの入り口の事など、すっかり忘れてしまっていた。

カエル男の兄弟は、いつのまにか居なくなっていたので、ネズミ男が出て来てくれなかったら、せっかく生き延びても、帰ることが出来なかった。



「それはいい。大賛成だよ。」


ヴィゼが疲れ切った顔をして言った。

続けてノラも、両腕を上に伸ばしながら言う。


「早く帰ろう。もうこんなところはコリゴリだ。」

「ずっと走りっぱなしだったもんな。」


疲れた様子のヴィゼとノラを見て、クロはニヤニヤしながら言った。


「でも、気を引くように飛ぶのだって大変だったでしょ?」

「まぁね。でも、おれは元気だよ?」


マリアの言葉に気を良くして、クロは、ふふんと鼻を鳴らした。

B・Bは、クロを見て、笑いながら言った。


「クロは元気だけが取り柄だからね。」

「ひっでー、B・B。他にも取り柄はあるよ。」

「例えば?」

「たとえばぁ?」


B・Bの発言に、クロは頬を膨らませ、クロの反論に、ノラとヴィゼが揶揄やゆして、みんなが笑い出した。


まるで、ピクニックの帰りみたいだ。


マリアは思った。


無事だったからだ。

誰も怪我をしなかったから、こんなに笑いながら帰ることが出来るのだ。


無謀な行動はもうしない。

思い付きで勝手に決めたりしない。


信じよう。


凪は強い。

凪は負けたりしない。


凪の足を引っ張らないように、もっと力をつけよう。


マリアは、B・Bがそう思ったように、もっと力をつけて、凪を、B・B達を、危険にさらさないようにしようと、強く心に思った。







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