表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束と契約3  作者: オボロ
30/35

#30 凪の決心



「柳君、大丈夫?」


マリア達があちら側へ行ってから10分ほどで、柿坂たちは到着した。

柿坂と小松が一緒の車で、榊原は別の車で———と、柿坂たちは2台の車で到着した。

車から降りた柿坂は、その場に座り込んで呆然としている柳梗平を見つけて、声を掛けた。


「怪我は、擦り傷程度の小さなものだけですが、念のために消毒をお願いします。」


凪は、人の姿に戻り、カエル男を後ろ手にして、拘束していた。


「放せ!放せ!放せと言っている、この狐め!」


凪に捕まり、身動きの取れないカエル男の二郎は、じたばたともがき、騒いでいた。

柿坂たちには、全く見えていないし、聞こえていないが。



バトとドドは、もう帰った。

マリア達があちら側へ行った直後、凪に、「ここに居てもやることは無い。先に帰っていろ。」と、かなり切れ気味に言われ、ムッとしながらも、確かにすることは無いし、拗ねた凪をなだめるのも面倒臭いと思ったバトが、渋るドドを連れて、先に帰る判断をした。


「狐が先に帰れって言ったんだ。マリアにはそう言えばいいよ。」


バトとドドには、絶好の言い訳だった。


バトとドドが居なくなった後、柿坂たちを待っている間に、凪は少しずつ冷静さを取り戻していった。



「小金井くんと月城さんは?」


榊原が聞いた。

榊原たち警察の目には、現場に居るのは、凪と沙也と柳梗平だけ。

次期宮司の2人の姿が無いことを、榊原は不思議に思った。


「何かありましたか?」


柿坂は聞いた。

神使である2人が、次期宮司無しで行動するとは、とても思えなかったからだ。


「こんな時間に子供が出歩いているわけないじゃないですか。家で寝ているんでしょう?柳君、無事だったんだから、もういいんじゃないんですか。さっさと帰りましょうよ。」


夜中に無理やり駆り出された小松は、面倒臭いと思っていることを隠しもせずに、投げやりな言い方をした。

柿坂は怒り出し、小松の胸ぐらを掴んだ。


「お前は何もわかっていない!いままで何を聞いて来たんだ!彼らが次期宮司であるあの子達と別行動をすることは滅多にない!あるとしたら、予定外のことが起きた時だけなんだよ!」

「………。」


物凄い剣幕で怒鳴られた小松は、度肝を抜かれて黙ってしまった。

柿坂は、小松の胸ぐらを掴んだまま、榊原に指示を出した。


「柳君を病院へお願いします。わたしと小松は、ここで子供達の無事を確認してから戻ります。」

「わかりました。さぁ、柳君、行くよ。」


指示された榊原は、座り込んだままの柳梗平を立たせて、乗って来た車に乗せ、病院へ向かった。

柳梗平が問題なく病院に向かうのを見送った後、柿坂は掴んでいた小松の胸ぐらを放した。

そして、凪と沙也を見て言った。


「あの子達は、あちら側ですか?今から行くのですか?」


「はい。わたしが余計なことを話したせいで、置いて行かれてしまいました。」

「何を話されたんですか?」


沙也が聞いた。

沙也の目から見ても、マリアの判断は意外だった。

黒石神社には、凪以外にも、仕えているモノがいることは聞いていた。

でも、そのモノたちを呼び寄せたのは、凪と沙也を動けるようにする為だと思っていた。

なのに、マリアは凪も沙也も置いて行ってしまった。


「……。」

「もしかして、沙希さまの話をされたのですか?」


言うに言えない様子の凪を見て、沙也は察してしまった。

まさかそんな話をするとは思わなかったので、驚いた。


「すまない。まさか、マリアがそこまで気にするとは思わなかった、迂闊うかつだった。わたしのミスだ。だからこそ、わたしは行って、伝えなければならない。君はどうする?」

「行きます!勿論です!」


凪と沙也は頷き合い、凪はカエル男の二郎の首根っこを掴んで、あちら側への入り口が現れた辺りに付き出した。


「………。」

「………?」


柿坂と小松の目には、凪がただ手を突き出したようにしか見えていなかった。

柿坂には、2人の行動の意味が理解出来ているが、小松には、2人が何をしているのか、さっぱりわからなかった。


「さぁ、入り口を作り出せ。早く戻らなければ、お前の弟もオオジョロウグモの餌になるぞ。」

「………。」


凪に吊るしあげられた二郎は考えた。


自分の身の安全だけを考えるように、常日頃から三郎には言い聞かせているが、果たして、それを実行することは出来るだろうか?

人間の子供相手なら、可能かもしれない。

でも、お嬢が相手だったら?

怒らせてしまったら、言い訳すら出来ない三郎を見て、お嬢はどう思う?

言葉を取り上げたことを思い出すだろうか?

いや、ない。

なぜ何も言わないと、ブチ切れるのがオチだ。


「弟のことも助けてください……。」


カエル男の二郎は、小さな声で呟いた。


「わかった。努力しよう。」


カエル男の二郎が、両手を前に突き出した。

目をつむり、念じていた。

すると、雑居ビルの前の空間に、少しずつ渦巻き状の歪みが現れ出した。


勿論、柿坂と小松には、その変化も見えていなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ