#3 神隠し
「これを見てください。」
榊原は、持って来たタブレットで、動画を再生した。
マリア達は、再生された動画を見た。
動画は、ショッピングモール内の防犯カメラの映像だった。
「この子を見ていてください。」
榊原の指が示したのは、小さな男の子だった。
たくさんの人が行き交う中、1人で小走りしている様子が映っていた。
歩いている大人達にぶつからないよう、上手くかわしながら、“歩いている”というよりも、走る手前のような速さで移動していた。
通り過ぎる大人達は、誰も声を掛けていなかった。
「………?」
ふと、マリアには違和感があった。
「ここです。」
榊原が言った。
言った途端、映像の中の男の子の姿が消えた。
「え?」
マリアは思わず声を出していた。
映像の中の男の子は、何かの陰に隠れて見えなくなったのではなく、忽然と姿を消していた。
「まるで、神隠しです。もう一度、再生しますね。」
榊原は、もう一度、映像を再生した。
そして、男の子が、ショッピングモール内を小走りしている映像になると、意見を求めるように、榊原は聞いた。
「何かを追っているように見えませんか?」
「………っ!」
言われて、マリアは違和感の理由を知った。
あまり褒められたことでは無いが、ショッピングモールの中を走っている子供は居る。
鬼ごっこ
かくれんぼ
ただ、ふざけているだけの場合もある。
だが、男の子が見せていた小走りは、そのどれにも当てはまらなかった。
周りに居る人の足元を見ながら小走りしている姿が、ショッピングモール内で見る姿としては、マリアには違和感があった。
それも、小さな何かを追っていたとしたなら合点がいった。
小さな何かを追いかけて、小走りしていたに違いない。
「きっと、それです。」
マリアも、そうに違いないと、榊原の意見に賛成した。
マリア達は、その後、男の子が忽然と消えてしまった瞬間の映像を、何度も何度も繰り返して、確認した。
何度見ても同じで、どこかに隠れたわけではなかった。
スロー映像でも確認したが、男の子の体は、空気の中に入って行くみたいに消えてしまっていた。
男の子が何を追っているのかは、結局、確認することは出来なかった。
何を追っていたにしても、忽然と消えてしまうのは、不思議だ。
どこへ消えてしまったというだろうか?
マリアには見当もつかなかった。
「本日、わたしは、この事件解決の依頼で伺いました。」
榊原は、再生していた映像が終わると、もう、再生を繰り返すのは止めて、マリアに向かって言った。
「………。」
マリアは、なぜ自分に言うのか分からなくて、ちらりと琴音を見た。
琴音は、素知らぬ顔をして、お茶を啜っていた。
「………。」
凪を見ても、凪はマリアを見ようともしなかった。
仕方なく、榊原を見た。
榊原は、まっすぐな目でマリアを見ていた。
「今回のこの事件、消えてしまった男の子は、あちら側へ迷い込んでしまったのではないか———というのが、わたし達の見解です。つきましては、黒石神社次期宮司であるマリア・月城・グレースさんには、あちら側へ行き、消えてしまった男の子を連れ戻して来ていただきたい。」
言っていることは、無茶苦茶だった。
『警視庁の榊原です。今回、次期宮司であるマリア・月城・グレースさんに、捜査を依頼したく、伺わせていただきました。』
どうして、マリア指名で、警察から捜査の依頼が来るのか、マリアは、まだ説明されていなかった。