#26 小金井佑介の抵抗
ドサッ!
「くっ!」
バタンッ!
「グワッ!」
渦巻き状に歪んだ空間の中に入ってしまった小金井佑介は、勢いよく地面に叩きつけられた。
小金井佑介を引っ張り込んだカエル男も、地面に叩きつけられ、小金井佑介を拘束していた長い舌は解けていた。
「ゲコゲコ……ゲコゲコ……」
お尻と頭を摩りながら、カエル男は立ち上がる。
そして、
「ゲッ…⁈コ……?」
首元に、大きな刃が当てられていることに気付いて、体を強張らせた。
「動くなよ。」
小金井佑介は、薙刀の長い柄を短く持ち、カエル男を脅した。
小金井佑介とカエル男は、暗い森の中に居た。
右を見ても、左を見ても、うっそうと茂る木々ばかりで、ヒトも動物も無く、静かな場所だった。
渦巻き状に歪んでいた空間は、もう何処にも無く、戻ることは出来そうもなかった。
「俺を、どこに連れて行くつもりだった?」
小金井佑介は聞いた。
「お嬢という女の所か?」
「……ゲコッ…」
カエル男は怯え、答えることが出来なかった。
小金井佑介には、自分が持っている長い柄の刃物、薙刀に怯えているのか、お嬢に怯えているのか、判断することはできなかった。
とにかく、ここから先に進むのは危険だ。
早く戻らなければ……。
小金井佑介は、何よりも戻ることを最優先にすべきと考えた。
「さっきの場所に戻れ!今すぐだ!」
「…ゲコッ…」
「入り口、作れるんだろう?」
「ゲコゲコッ…」
「なんでしゃべらないんだよ!」
「ゲコッ…」
「くそっ………。」
カエル男は、小金井佑介が何を言っても、ただゲコゲコ鳴いているだけで、言葉が通じているのかもわからなかった。
小金井佑介の手にある薙刀は、マリアが思念で作り上げた弓矢のように、光っては居なかった。
実在している薙刀と、同じように見える。
しかし、持ち歩ける大きさではないので、思念で作り出したものであるのは確かだった。
2人は、ずっとそのままだった。
カエル男は、薙刀の刃を首元に当てられたまま、ゲコゲコ鳴く以外には何も言わなかった。
逃げようとするどころか、全く動かない。
小金井佑介は、人の世に戻りたいのに、出口が無いのでは、どうすることも出来なかった。
仲間は他に居るのだろうか?
お嬢が此処に来ることは?
「くそっ!」
全く埒が明かない、時間ばかりが経つこの状態に、小金井佑介は苛立った。
「誰かいるの?」
声がした。
「何をしているの?」
女の子の声だった。
小金井佑介は、声がした方に目を向けた。
「………⁈」
木々の間から姿を見せたのは、髪が長くて色白の、百合の花のような女の子だった。
柳梗平が証言していた通りの容姿に、小金井佑介は驚いた。
「あら、三郎?三郎じゃない。随分と遅かったのね?」
か弱そうな容姿、か弱そうな声。
知らなければ、絶対に騙されるだろう。
「こっちに来るな!」
小金井佑介は、近づこうとするお嬢に叫んだ。
小金井佑介たちの予想では、お嬢が親玉だ。
運び屋たちに命令し、柳梗平を運ばせて、精力を吸い取っていた張本人だ。
柳梗平に怪しげな術を掛けたのも、この少女であるはず。
か弱そうな姿をしていても、中身は大物に違いなかった。
「どうして、そんな酷いことを言うの?彼はうちの使用人よ。返してちょうだい。」
お嬢はか弱い振りをし、カエル男を心配する振りをして、一歩前に進み出た。
「それ以上、近づくな!」
小金井佑介は、カエル男の首根っこを掴み、盾にしながら、持ち直した薙刀をお嬢に向けて、お嬢の動きを警戒した。




