#23 最後の賭け
「………。」
もう、後がない……
ネズミ男の源治は、切羽詰まっていた。
次に、次期宮司の子供を連れて帰らなければ、あの大蜘蛛女は、絶対に家族を喰うだろう。
おそらく、全員ではない。
子供を、多分、1人だけ……。
目の前で喰らい、絶望させるに違いない。
そして、また脅すのだ。
次こそは連れてこい———と。
「………。」
カエル男の二郎と三郎を見た。
こいつらに逆らう度胸は、無い。
命乞いをし続けて、生き延びてきた奴らだと、大蜘蛛女は言っていた。
「何でもするから殺さないでくれ。」と、目の前で兄を喰われた弟2人は、大蜘蛛女に頼み込んだのだと言う。
そんなカエル男2人が、家族を助けたいから力を貸して欲しいと、ネズミ男に言われたぐらいで、命がけの挑戦をしてくれるとは思えなかった。
今のカエル男2人が喜んでやってくれるだろうことは、大蜘蛛女が欲しくて欲しくて堪らない、次期宮司の子供を連れてくる手伝いくらいだ。
ならば、ネズミ男も、”次期宮司の子供を連れて来る”———そのことだけを考えて、作戦を練る必要があった。
万が一の場合、次期宮司の子供を釣る為の餌であった柳梗平は、死んでもいい?
殺さない程度に怪我を負わせ、次期宮司の子供を脅してみるのはどうだろうか?
2人も釣れたんだ。
せめて1人ぐらいは連れて戻りたい。
柳梗平を上手く使えば、次期宮司とはいえ子供、1人ぐらい、どうにかなるのではないだろうか……?
ネズミ男は考えた。
《梗平くん、梗平くん。今日はどんなお話しを聞かせてくれるの?》
長い髪の少女が微笑みかける。
白い肌は、外を駆け回ることが出来ない証のようだ。
細い腕も身体も、守ってあげなくてはいけない存在だと思わせる。
笑っていて欲しいと思う。
寂しい思いをさせたくないと、心から願ってしまう。
《梗平くん、待っているからね。約束よ。絶対に会いに来てね。》
「………。」
午前2時22分、柳梗平は、目を覚ました。
この時間に目覚める時は、いつも少女の夢を見た後だった。
源治さんが来る……。
柳梗平は、唐突に思い、病室を出た。