#22 2度目の作戦
マリアと凪は、柳梗平を迎えに来ていたネズミ男と2人のカエル男の目的を考えた。
柳梗平をあちら側へ連れて行っていた目的は、柳梗平の血色の悪さを見れば、精力を吸い取っているのだと、予想できた。
おそらく、吸い取っているのは、ネズミ男でもカエル男たちでもなく、『お嬢』だ。
体の弱い、百合の花のような女の子だと、柳梗平は、カウンセリングの時に言っていたが、その体の弱い、百合の花ような女の子が主犯なのだろうと、マリアも凪も確信していた。
このまま精力を吸い取られ続けていたら、柳梗平の命が危ない。
マリア達は、3度目となるネズミ男たちの犯行を、なんとか阻止することに成功した。
しかし、それで、『お嬢』が諦めるとは思えず、警察からは引き続きの合同調査協力を依頼された。
小金井佑介は、前回同様、毎日の見張りと8日後の雑居ビル前集合を、マリアと凪に頼んできた。
柳梗平の精力を吸い取っているのは、おそらく『お嬢』と呼ばれている妖。
ネズミ男と2人のカエル男は、ただの運び屋。
小金井佑介の予想は、マリアと凪の予想と同じだった。
今から、別の獲物を探すよりも、罠にかけた獲物を運ぶ方が簡単なので、柳梗平に掛けた術が解けるまでは、柳梗平を連れて行こうとするに違いない。
ただ、これといった解決策は、まだ見つかっていなかった。
今のままでは、妖たちが柳梗平を狙い続けている限り、マリア達は、永遠に柳梗平が連れ去られるのを阻止し続けるしかない。
運び屋を祓ったところで、術を掛けたのが『お嬢』ならば、別の運び屋が来るだけ。
なんとか『お嬢』を引きずり出さなければならないのだが、なかなかその方法が思いつかなかった。
分かっていることは、もう柳梗平をあちら側へ連れて行かせてはいけない———ということだけ。
「万が一にも、あちら側へ連れて行かれてしまったら、終わりです。もう柳梗平は戻って来ない。絶対に阻止しましょう。」
これも、小金井佑介は、意見を一致させていた。
念の為の毎日の見張りに、異変は無かった。
どんなに訴えても妄想と扱われてしまうことに、柳梗平は苛立ちを募らせていた。
暴れることもあった。
その度、鎮静剤を打たれているようだった。
カウンセリング以外の時間は、ほとんど寝ているような状態だ。
柳梗平にとって、あまり良くない環境のように思えてならなかった。
それ以外の対処法が病院にはないのだと、残念そうに柿坂が説明してくれたのが、マリアには印象に残っていた。
「すまないね。今回の事件は長丁場になりそうだ。学校に影響が出ない程度によろしく頼みます。」
妖相手では何も出来ないことを、悔やむ人がいる。
マリアは、なんだか不思議な感じがしていた。
そして、8日目の夜、新たな作戦が、ようやく立てられた。
今回、考え出された作戦は、こうだった。
前回、運び屋たちは、柳梗平を籠に乗せて猛スピードで運んだところ、見事に吹き飛ばされて転がった。
柳梗平は、籠の中に居たので無事だった。
なので、今回、柳梗平を何かの中に入れて運ぶとは考えにくい。
剥き出しの状態で、抱えるなり背負うなりして運ぶなら、柳梗平に当たることを恐れて、攻撃の手を緩めるのではないかと、考えるのではないだろうか。
そこで、柳梗平を抱えるなり背負うなりして運んでいる運び屋諸共、捕獲することになった。
逃がす運び屋は、たった一人。
「仲間を助けたければ、『お嬢』をここに連れて来い————そう言って、『お嬢』を引きづり出します。」
小金井佑介が作戦を提案した。
「脅すなんて卑怯な真似、本当ならしたくありません。でも、そんなこと言っている状況ではないと思うんです。ただ、ここに現れた『お嬢』をどうするかは、『お嬢』と対峙した時に決めたいと思います。」
脅すことに対して、小金井は苦渋の選択だったことを説明し、凪に意見を求めた。
完全に祓うか——
少しの力を残して解放するか——
決めるのは、金石神社の次期宮司・小金井佑介と、神使・沙也だ。
マリアと凪は、その手伝いで来ているだけなのだから。
「よろしいのではないでしょうか。」
凪は、小金井佑介の提案に賛成の意を口にし、マリアを見た。
マリアは、凪に意志を汲んで、後をつづけた。
「わかりました。わたしと凪が、柳梗平さんと運び屋2人を確保します。残り1人の捕獲と交渉は、お願いしますね。」
8日目の夜、マリア達の作戦は決定した。
「承知しました。」
小金井佑介は、力強く頷いていた。