#20 神使の体の大きさ
凪の本当の姿は、大きな白い狐だ。
大きな白い狐の凪の瞳は、マリアの顔よりも大きい。
マリアを咥えることも、マリアを背中に乗せることも出来るし、翼が無くても空を駆けることだって出来る。
しかし、金石神社の神使、沙也は、普通の鳩よりは大きな体と翼を持っているものの、小金井佑介を運べるほどには大きくなかった。
神使にも種類はたくさん居て、その種類によって体の大きさは違うのだろうか?
マリアは不思議に思い、凪に聞いた。
「わたし達の体の大きさや能力は、神使である時間の長さに比例している。金石神社の現神使は、先々代の宮司の時から仕えるようになった。日が浅い為にまだ体は小さいが、いずれは大きくなるだろう。今は小さいなりに出来ることをすればいい。」
「沙也さんの前の神使はどうなったの?」
先々代の宮司の時に神使になったと言うのなら、それまでの神使は何処へ行ってしまったのか?
マリアの素直な疑問だ。
「小金井くんは、もう一人神使がいるって言っていたわ。その人が前の神使?一つの神社に神使は何人居てもいいの?」
「一つの神社に神使は一人でなくてはいけない決まりは無い。そこの神が使いと決めたなら、それが神使となる。金石神社の神使は、双子の白い鳩だ。沙也の他に居るもう一人の神使とは、沙也の双子の姉で、名は沙衣という。彼女たちの前の神使は白い鷲だった。」
凪は、何でもないことのように、答えていた。
「その白い鷲の神使はどうなってしまったの?」
「先々代の宮司がまだ次期宮司だった時に、亡くなったと聞いている。神使だって致命傷を追えば死ぬ。当然のことだ。」
凪は、さらりと話したが、マリアは、これ以上、根掘り葉掘り聞いてはいけない話だと思ってしまった。
自分で聞いておいてなんだが、そういう話になるとは思っても居なかった。
神使でも死んでしまう……
マリアは、その真実にショックを受けた。
神使でも死んでしまうことがあるということは、凪も死んでしまう可能性があるということ。
小金井佑介が、いつも神使を一人しか連れて来ないことや、見張りにマリアも凪も駆り出さなかった理由が、そこにあるような気がしてしまった。
神使が居なくなってしまった神社は、どうなってしまうのだろう。
神使が致命傷を負うなんて、一体、何があったのだろう。
そう考えると、あちら側や妖が関わっていないとは思えなかった。
危険な場所に出てしまうかもしれないと、柳梗平を追ってあちら側へ行くことを、凪は止めていた。
凪のその考えは、間違っていなかったと、マリアは思った。
マリアの戦う術は弓だけ。
万が一の時、凪は絶対にマリアを助けようとする。
宮司の孫だから。
次の宮司になる者だから。
凪を失ってしまうということは、黒石神社の神使を失ってしまうということ。
そんなこと、絶対にあってはならない。
琴音のためにも。
御弥之様のためにも。
無理はしない。
凪に無理は絶対にさせない。
凪が、マリアを、身を挺して守らなければならない、そんな事態には、絶対にならないようにしなければいけない。
無理はしない。
凪に無理は絶対にさせない。
マリアは密かに誓っていた。