#19 カウンセリングで語られた内容
4度目の奇行により保護された柳梗平は、カウンセリングを受けながらリハビリすることで、今後の治療法は決まった。
病院の医者も、柳梗平の両親も、柳梗平の奇怪な行動に、妖が関わっているなどという考えが浮かぶ訳もなく、精神的な問題であると結論付けた。
カウンセリングの様子は全て録画しているのだという。
そして、警察庁総務部情報管理課庶務室室長 ・ 桧山総一朗の根回しによって、小金井佑介は、それを見ることが出来た。
勿論、協力体制にある黒石神社の次期宮司・マリアも———だ。
柳梗平は、頑なに自分は可笑しくはないと言い続けていた。
「学校は楽しくないし、友達は居るけど、別にって感じ。話を合わせるのって疲れるんだ。でも、1人で居ると、先生達が心配して話し掛けて来るから、それも面倒臭いし…、だったら、大して楽しくなくても、学校に居る間だけ、同級生と一緒に居た方が良いかなって……。」
「友達と、どういう場所に行って遊んだりしていたのかな?学校の帰りにカラオケとか?」
「学校のあと、どこかに遊びに行ったりなんてしないよ。どうせ、つまんない話で盛り上がった振りをしなきゃならないんだ。そんなの学校だけで充分だよ。だから、用事かあるって、いつも遠回りして帰ってた。そんな時、源治さんに声を掛けられたんだ。一風変わっていて、もしかしたら、暴力団とか、そういう怖い人なのかもしれないって、思ったんだけど、『お嬢に甘いお菓子を頼まれたんだけど、買い過ぎてしまったから、持って帰るのを手伝ってもらえないか?』って、頼んで来たんだ。その日は雨が降っていて、でも、両手に一杯、包みを持っていた。傘を差していたから、持って行くのは大変そうだなって思って、ぼく、どうせ暇だったし、手伝ってあげることにしたんだ。南区まで歩いたとは思わなかったけど、雑居ビルは覚えてる。ところどころ、記憶が飛んでいるんだ。で、気付いたら森の中に居て…、そこから少し歩くと、お屋敷みたいな大きな家があって、そこのテラスに、着物姿の女の子が座って居たんだ。源治さんが『お嬢』って、呼んでいた。髪が長くて、色白で、百合の花のような女の子だったよ。身体が弱くて、外に出掛けることは出来ないんだって。一緒に暮らして居るのは、源治さんの他に、使用人が2人いるだけで、話し相手も居なくて毎日退屈なんだって。だから、たまに会いに来て欲しいって言われた。でも、いつっていう約束はしていなかったんだ。なのに、彼女の夢を見た後、彼女に会いたくなって、非常用の出入り口に行くと、源治さんが迎えに来てくれていた。それから、彼女の所へ行って、お菓子を食べながら話をして……、で、気が付くと、病院に居るんだ。本当だよ。倒れた覚えは無いし、どうして倒れていたのかなんて、ぼくには分からない。分からないんだ。彼女に会いに行かせて。彼女は悪くないんだ。彼女は何もしていない。きっと、源治さんが何かしたんだ。源治さんと使用人の2人が、彼女を利用しているのかもしれない。だって、源治さんも使用人達も、人間じゃなかった。ネズミとカエルだった。ネズミとカエルの顔だったんだよ!」
「落ち着いて、梗平君。そんな人はいないよ。そんな顔の人は居ないの。だから、落ち着いて。ね?」
「嘘じゃない!ぼく、嘘なんかついてない!」
興奮した柳梗平が立ち上がり、カウンセリングの先生が慌てて駆け寄ったところで、録画は終わった。
「………。」
「………。」
「………。」
マリアも凪も琴音も、映像を見た後、すぐには言葉が出て来なかった。
柳梗平は、嘘を言っているようには見えなかった。
だが、全てを語っているとも、マリアには思えなかった。
マリア達が会いに行った日、帰り際に見せた笑みの意味が、まだ分かっていなかった。
『なんで?この人たちに頼むんじゃないの?———————』
あの言葉の意味も……。
誰に、何を頼むと、柳梗平は思ったのだろうか?
「………。」
マリアの疑問は深まるばかりだった。