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約束と契約3  作者: オボロ
17/35

#17 夢か現か



病院の敷地内にある高い木の上に、白い鳩が止まっている。

白い鳩は、明かりが消えているたくさんの病室の中の、一つの病室の窓を見ていた。

その病室は、8日前、雑居ビルの前で倒れている所を発見された、やなぎ梗平きょうへいという少年が入院している病室だ。


現在、午前2時21分。

彼は、ベッドの中で、すやすやと眠っている。


時計の長い針が動いた。

動いた瞬間、柳梗平は、パッと目を開いた。

まるで、目覚ましが鳴って起こされたような目の覚まし方だった。

そして、ベッドから起きて、スリッパを履いて、そのまま病室を出て行った。

廊下を歩き、トイレの前を通り過ぎ、階段を下りていく。

ナースステーションに居る看護師たちは、廊下を歩いている柳梗平に、何故か誰も気付かなかった。

3階から1階まで降りると、ロビーを横切り、緊急用の出入り口に向かった。

迷う様子も、隠れる様子も無く、堂々と歩いていた。


カチャッ…


緊急用の出入り口のドアを開けると、和傘を差した着物姿の小柄な男が1人、立って居た。

雨は降っていなかった。


「お待ちしておりました。」


男は、傘を持ってない右手を膝に当て、足を少し開いたまま腰を折り、礼をすると、持っていた艶やかな赤い着物を、柳梗平に羽織らせた。

顔は全く見えなかった。


「では、参りましょう。」


男の案内で病院を出ると、病院の前で籠が待っていた。

蓑と笠を被った、こちらも小柄な男が2人、籠を持っている。

2人とも、どんな顔をしているのか、見ることは出来なかった。

柳梗平は、着物姿の男に促されて、籠に乗った。

柳梗平が乗れるとは思えない籠の大きさだったが、柳梗平が中に入ろうとすれば、すんなりと中へ入ってしまった。

胡坐あぐらをかいても座ることが出来る広さがあった。

籠が持ち上げられる感覚がした。

柳梗平は、籠に揺られながら、これから向かう先で待っているであろう人のことを考えた。


百合の花を彷彿させるような女の子だった。

可憐で、品があり、華やかな女の子だった。

大切に、大切に育てられてきたのだと分かった。

世間知らずのお嬢様というより、箱入り娘と呼ぶ方が相応しいと思った。

身体が弱く、外に出ることが出来ないのだと言っていた。

身体が、もっともっと強くなれば、外に出られて、どこにでも行けるのに………と、身体の弱い、可憐な彼女は嘆いていた。


『だから、梗平さんが来てくれて、とてもうれしい。また来てくれる?今度からは、源治げんじを迎えに行かせるわ。』


たわいない話をするだけなのに、彼女はとても嬉しそうだった。


『約束よ?また来てね。』


そう言って、白くて細い、綺麗な小指を差し出して、指切りをせがんだ。

はにかむ笑顔が愛しくて、胸が高鳴った。

毎日でも来たいと思った。

でも、身体の弱い彼女には、毎日は無理なのだ。


源治と呼ばれていた着物姿の男は言っていた。


『お可哀想です。外に出られないことで、お友達も出来ず、いつもおひとり。あんなにも楽しそうなお顔、この源治、見たのは久しぶりです。梗平殿、ありがとうございました。』


『彼女の病気、治す方法はないの?』


柳梗平は聞いた。

彼女がずっとこのままなんて可哀そうだと思ったからだ。

着物姿の源治は、少し考え、躊躇いながら言った。


『無いことも無いのですが、それには、協力してくれる人が必要なんです。簡単なことではないので、誰にでも出来るというわけでは……』

『どんな方法?ぼくには協力出来ない?』


柳梗平は食い下がった。

方法があるなら何とかしてあげたいと思う気持ちが強かった。

源治は、驚き、そして、覚悟を決めたように話し出した。


『神社で働く宮司という者には、不思議な力があると言います。しかし、今現在、宮司として働いている者は忙しく、ここへ来るのは困難です。ですが、次の宮司となる子供だったら……どうでしょう。次とはいえ、宮司になるのなら、例え子供であっても、不思議な力はあるはずです。子供であるなら、ここへ来る時間もあるでしょう。その不思議な力でお嬢の身体を強くしてもらえれば、お嬢は外へ出ることが出来るはずです。』

『次の宮司となる子供って?』


希望を見つけた柳梗平は、更に詰め寄った。

源治も、更に詳しい話を柳梗平に聞かせた。


『きっと警察が連れてきます。警察は、お嬢のことを調べているんです。外に出られないお嬢の体を、警察は研究材料としか見ていません。しかし、自分たちの手に負えないと判断した時、宮司の不思議な力を当てにするはずです。宮司は暇ではありませんから、おそらく、次の宮司となる子供を寄こして来るでしょう。見守り役もきっと一緒です。見守り役には注意してください。あの者達は警察の味方です。油断できません。お嬢のことは、絶対に、ひと言も口にしないでください。』



どんな理由があるにしても、彼女を研究材料にするなんて許さない。

彼女は体が弱いだけで、独りぼっちなのに……。

あいつらは、好きな時に好きなだけ、外に出ることが出来るのに……



「源治さん、8日前、警察が子供を二人連れてきましたよ。きっと次の宮司です。でも、安心してください。彼女のことも、源治さんのことも、ぼく、話しませんでしたから。」




「そうですか。」


「………。」

「………。」



傘と笠の下、3人の男がにやりと笑った。







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