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約束と契約3  作者: オボロ
10/35

#10 初めて体験した日本の梅雨



今日も雨だ。


「………。」


マリアは外を眺め、思う。


イギリスも雨は多かった。

でも、日本ほどには湿気はなかった。


学校の中は、エアコンにより温度も湿度も管理されているので、快適に過ごすことが出来る。

しかし、その反面、外に出た時の不快感は、半端ではなかった。



梅田うめだつとむくん行方不明事件から一ヶ月が経っていた。



“あちら側”から奨くんと一緒に、ショッピングモール内に戻って来たマリアと凪は、真っ先に警察官である榊原に連絡した。

榊原は、予想していたよりも、ずっと早いマリア達の帰還に驚いていた。

そして、奨くんを連れて戻って来たことを知り、とても喜んでいた。


『すごいよ。初めてとはとても思えない迅速な対応です。驚きました。すぐに迎えに行きます。親御さんにも連絡しますね。兎に角、無事でよかった。お手柄です。ありがとうございます。』


奨くんを保護し、両親の元へと帰すのは警察の役目なので、榊原は奨くんを連れて、一度、警察署に向かった。

その後、両親と対面し、一緒に病院へ行って、念の為の心と体の診断を受けるのだという。

それでも、すぐに両親と会えるのなら良かったと、マリアは思い、ホッと胸を撫で下ろした。


『報告書は、後日、提出してください。』


この言葉を聞くまでは。


警察から依頼された事件には、報告書を提出しなければならないらしい。

事件の捜査方法や、解決するに至るまでのあれやこれやを、全て文章にして報告するのが“報告書”なのだと、報告書の意味が分からず、ぽかんとしていたマリアに、榊原は説明した


『すみませんね。決まりなので、お願いします。』



警察の提出する報告書など、一度も書いたことの無いマリアに、さらりとすぐに書けるはずがなかった。

当然、凪が書くもののと思っていたマリアに、凪は、「報告書は次期宮司が書くものだ。」と、断言した。


『マリア、もしかしたら忘れているのかもしれないが、わたしは神使だ。神使が報告書を書くのか?おかしいだろう?』


少し怒らせてしまったのかもしれない。


報告書を提出するまで、3週間もかかった。

書き方が分からなくて、何度も書き直さなければならなかった。

文章の確認。

誤字の確認。

琴音と凪からのOKを貰うまでの3週間だった。


B・Bと使い魔達は、当日に事件を解決させたというのに、今度は机にかじりついて難しい顔をしているマリアを見て、不思議そうにしていた。

琴音と凪に、何度もダメ出しされて、その度、項垂れるマリアを見て、今度はどんな難題と向き合っているのかと、疑問に思っていたに違いない。

マリアが、実は報告書と闘っていると、知った時のB・Bと使い魔達のあわれみの表情は、決して忘れはしないだろう。

それくらい、日本語の文章に馴染みの無いモノにとって、日本語の文章作成は難しいのだ。


出来ることなら、報告書など、もう二度と書きたくないと、マリアは思っている。

警察から事件解決の依頼が来なければ、報告書を書く必要は無い。

超常現象的な事件など、もう起きなければいいと、マリアは願わずにはいられなかった。




「マリアちゃん、大丈夫?なんか憂鬱?」


沢井さわい萌々ももが話し掛けて来た。

いつの間にか、授業は終わっていたらしい。

教室の中は快適で、油断していると意識が遠くへ行ってしまう。


「うん。外と中の快適さがあまりに違っていて、教室から出たくなくなる。」

「くすくす…仕方ないわね。日本の梅雨の時期の湿気、すごいでしょ?日本の梅雨、初めてですものね。体力削がれる感じ、しちゃうわよね?」


津谷つたに美和みわも来て、くすくす笑った。

梅雨に入ってからのマリアは、授業中、居眠りとまではいかなくても、ぼーっとしていることが多くなった。

それは、湿気のジメジメに体力が削がれているからなのだと、津谷の言葉で、マリアは知ることになった。


「湿気って、体力使うんだ。」


沢井が驚いたように言った。

どうやら、沢井も知らなかったようだ。


「そりゃあ、そうよ。」


津谷は、沢井をたしなめるように、言葉をつづけた。


「生まれた時から日本で暮らしている沢井さんでも、梅雨に体がだるくなること、あるでしょう?なら、今年、初めて日本の梅雨を体験している月城つきしろさんは、もっとだるく感じていて当たり前なの。いい?同じではないことは覚えておいてね?」


ぴしゃりと言われ、しゅんとなった沢井は、項垂うなだれながら返事をした。


「……はぁい。」



ここは平和だ。






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