第55話 告白
リリス誘拐事件はコレットの病気同様、表には出なかった。
リリスはあくまで病気により学院を欠席していたことになっていた。
次の日からカイルも何事もなかったように学院に出てきていた。それはリリスの望みでもあったからでもある。
ただ、ハシームとマリウスは学院を休んでいる。
ハシームの意識は戻ったが、まだ肉体変化をさせられるほど魔力も傷も回復していなかったからだった。しかし、それも数日もすれば元通りになりそうな回復具合だった。
マリウスも魔力が回復していないため、少年の姿になれないでいた。
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「それで、お前たちは何者なのだ?」
リリスの家を訪れたジルはマリウスに問いかける。
夜な夜な家畜場や郊外へ行って動物から魔力を少しずつ補充したマリウスは、ジル達と同じ十代後半まで戻っていた。
そんなマリウスとジルはリリスの家のリビングで二人きりで話をしていた。
簡単なつまみが置かれたテーブルを挟んで向かい合わせで座っていた。
「何者だと言われれば、魔法使いだ。儂もハシームもな」
普通であれば、魔法使いだと言われても全く信じる気がないジルであったが、目の前で二人の変化を見てしまっては信じるしかなかった。
「それで、なんで魔法使いが二人もリリスに関わっているのだ? ハシームは魔法使いで王子なのか?」
「ハシームは数ヶ月前にリリスが助けた銀髪の老人で、王子というのは嘘だ。魔法の力で周囲にそう思わせていただけだ。こいつはお前さんがリリスに、老人一人助けてどうすると文句を言ったあの老人だよ。そして儂も五年ほど前、リリスに助けられたのじゃよ。長く生きすぎて、自暴自棄なっておる時に……な。儂はそれからリリスとリリスの父の力になっているんじゃよ。ちなみにハシームは二百年ほど、儂はもっと生きとるジジイどもじゃ。何だったらお前さんのひいじいさんの代のどころか、その祖父さんの時代も知っとるぞ」
そう言って笑いながら、いつものようにワインを飲む。マリウスが酒を飲むと聞いて、ジルが持ってきた上等なワインだった。
それがすでにジルと二人で二本目に突入していた。
「そんなにも……それで、あなたたちの目的は何なのですか?」
ジルはただの老人なら、ジジイと言い放つ。しかし、二人ほど長生きしていれば敬意の念も生じる。
「儂もハシームも思いは一緒じゃ。ただ、リリスの幸せを願っている。それだけだ」
マリウスは美味そうにワインをあおるとジルに質問する。
「ところで、お主はリリスの事をどう思っておる」
ジルは突然の質問と、その内容に慌てて言葉を選ぶように途切れ途切れに返事をする。
「どうって……あいつは……俺に逆らってばかりで……生意気で……気が強い奴だと思います」
「それはまあ、よく分かる。あやつの気の強さは生まれつきじゃ、儂も手を焼くこともあるがのう。それで女としてはどうじゃ」
マリウスの”女として”、という言葉に、ジルはリリスが老人を、コレットを助けてくれたこと、カイルの船の上で唇を重ねたことなどが意図せず思い出された。
はっきりと自分の考えを真正面からぶつけてくる意志の強さ。それでいて、困った人がいれば自分に関係なくとも助ける優しさ。自分を誘拐した相手すら赦してしまう寛大さ。
その全てが好ましく感じている自分に気がついてしまうジルであった。
「嫌いではない。と、言うよりも好ましい存在だ」
自分の気持ちと向き合いながら、それを戸惑いながらも口にする。
それを見たマリウスは、外の様子に何か気がついたかのように、小さく笑う。
「それは、お前さんがリリスの事が好きだと言うことか? 異性という意味で」
「そ、そう言われても」
「何を恥ずかしがる。リリスとクロエは今、畑に行って、ハシームも部屋で寝ておる。ここには儂とお前さんの二人だけじゃ。思い切って自分気持ちを口にして見るのも大事な事じゃぞ。長年生きた人生の先輩としての言葉じゃ、信じろ」
アルコールが入って気持ちが大きくなっているためか、ジルは年長者のマリウスの言葉に素直に従ってしまう。
ジルは思い切って自分の気持ちを素直に叫ぶ。
「確かに、好きだ。俺はリリスの事が好きだ!」
「ただいま……へぇ!」
ジルがそう叫んだとき、リビングのドアは開き、リリスが入ってきた。
当然、ジルの叫び声はリリスにも聞こえていた。と言うよりも玄関の小さな物音に気がついたマリウスが、リリスに聞かせるためにジルを誘導したのだった。
「な、なんだ。お前は! 何でここに!」
ジルは慌てて、理不尽な文句を言う。それに対してリリスはごくまっとうな反論をする。
「なんで、ここにって、ここはわたしの家です。家主が帰ってきて何の問題があるのですか!」
「それで、リリス。今の話は聞こえておったじゃろう。男の告白をなかったことにするような教育をおまえにした覚えはないぞ」
マリウスはリリスの先生面をして、リリスに返事を求める。
「そ、そうだ。お、おまえの返事を聞かせてくれ」
ジルはもちろん、マリウスとクロエがリリスの答えを待っていた。
リリスは初めジルの事が好きでは無かった。嫌いと言っても過言ではなかった。しかし、妹のために奔走した優しき兄。そして、誘拐されたリリスのために自ら助けに来てくれたジル。今は決して悪い感情は持っていない。マリウスにだまされて気絶したリリスにキスまでしたジル。考えないようにしていても、意識はしてしまっている。そして、生まれて初めての男性からの告白。いろいろな物がリリスの頭を錯綜して考えが上手にまとまらない。
そんなリリスを見つめる三人の圧が強い。何か言わなければ……そう焦ったリリスが口を開く。
「ジル! お友達からお願いします!」
二人に芽生えた小さな恋心が大きく花芽吹くのは、これからいくつかの困難を乗り越えてからだった。
~Fin~
最後までお読みいただきありがとうございます。
公募に出した作品をWeb用にしております。
初めて令嬢ものを書いた作品でしたが、いかがでしょうか?
主人公二人の性格がアレですので、LOVE少なめですが、うぶな二人と言うことで大目に見てやってください。
ちなみにこの後、タガが外れたジルがうざいほどLOVEをまき散らすことでしょう。




