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第54話 和解

「特に罰を求める気はありません」


 三人の思惑を打ち壊すようにリリスはきっぱり宣言した。


「それでいいのか? 罪には罰を、信賞必罰。軍を、国を治めるうえで必要なことだぞ」


 ジルは軍の将らしく、罰を求める。


「そうだ。ぼくは罪を犯した。許されるためにも罰を与えてくれ」


 カイルも自らの罰を望む。

 どうしてこう、男たちはゼロか百かで物事を考えるのだろうか、とリリスは呆れていた。


「では、こうしましょう。カイル様(海産物、塩、海運)、わたしと友達になってください。私はこの学院のみんなと友達になって、この国を、領土を、領民を豊かにしたいのです。変な縄張り意識とか、対抗心などなく、助け合って行きたいのです」


 そう言ってリリスは涙でぐちゃぐちゃになっているカイルにハンカチを渡しながら、提案した。


「それと、早とちりの癖は直してください。大事なことはちゃんと話をしましょう」

「……そんなことで……いいのか?」


 カイルはまるで言葉の裏を探るように、リリスの顔をじっと見る。


「そんなことでいいのですよ。そしてあなたの言うそんなことを、わたしは学院に入ってずっと求めていたのですよ。カイル(海産物、塩、海運)」

「ぼくは、ジルのそばにいる君に嫉妬してしまうかもしれないが、それでもいいのか?」

「それですよ! ちゃんと言葉にしていただければ、わたしもちゃんと答えられます。嫉妬してしまうのは人の正常な心の動きです。危害を加えたりしない限り、どうぞ好きなだけ嫉妬してください。何なら文句も受け付けます。その場合、わたしもそれ相応の反論もしますよ。こう見えて口喧嘩は強いんですからね、覚悟してください」


 リリスはちょっとおどけるように微笑みながら、まるで感情をコントロールできない小さな子供に諭すように話しかける。


「それに、わたしはただのジル様(軍事)の友人です。カイル(海産物、塩、海運)が嫉妬するのであれば、素直な気持ちでジル様と一緒に居ればいいのではないのですか? そうですよね、ジル様(軍事)」


 リリスはそう言って、あっけにとられているジルの方を向く。


「いいのか? ジル」

「別に構わん。人に敬意をもって好かれるのは上に立つ者にとって当たり前のことだ。好きにしろ」


 なぜか、ジルは胸を張ってカイルに答える。


「良かったですね。カイル」


 シャーロットは、この穏やかな結末にほっと胸をなでおろした。誰ひとり傷つかずに終わった。それどころか長年、カイルの心の奥底にあったものが、綺麗に浄化された。シャーロットはリリスを見た。ただの田舎貴族の娘だと思っていたリリスがこんなにもシャーロットにとっても大事な存在になるとは思わなかった。不思議な娘。シャーロットはリリスを見て愛おしささえ感じる自分に気がついた。


「しかし、一つ気に入らん!」


 シャーロットのそんな気持ちを踏みにじるように、ジルは声を上げた。


「なんですか、ジル。リリスも、ああ言っているじゃないですか。これ以上、何が……」


 シャーロットの文句を聞く気が無いように、ジルはひとつ息を吸うとリリスの方をまっすぐに見た。


「お前はカイルには呼び捨てにしておいて俺はいまだに様付けか!」

「そこですか!」


 シャーロットが思わず突っ込む。


「ジ・ル・さ・ま(軍事)。何か問題でも? なんでしたら殿下とお呼びしましょうか?」


 リリスは顔面に貼り付けた笑顔をジルに向ける。当然、目は全く笑っていない。


「い、いや、いい」


 その顔に気圧されて、ジルは黙ったのだった。

 こうして、カイルはリリスに赦されて、解放されたのだった。


「しかし、どうしてぼくが犯人だって分かったのだ?」


 カイルは拘束を解かれた腕をさすりながら尋ねた。


「そんなのは簡単なことだ」


 簡単ならもっと早く助けに来てください、とリリスは心の中で突っ込みながら、ジルの説明を待った。


「目撃者の証言ではリリスは特に抵抗することなく馬車に乗った。つまり顔見知りの犯行。そして、街の隅々まで探したが、リリスの手がかりが見当たらなかった。つまりリリスは街の外にいる。街の外で長期間、監禁できる場所と言えば船だ。そして決定的だったのは、俺の捜索から逃れられる奴などお前しかいない」


 ジルはマリウスの推理をまるで自分が発見したかのように説明した。


「そうかい。そういう意味ではぼくは君に信頼されていたのだね。皮肉なことに」

「まあ、そういうことだ」


 そう言ってカイルとジルは顔を見合わせてお互い微笑んだ。

こうしてリリスはジル、ロッティ会、海遊会を傘下に収め、カトリーヌ率いるカティ会との抗争に明け暮れるのであった

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