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第50話 マリノス登場

「ジル! あなたは何をやっているのですか⁉」


 廊下からシャーロットの叫び声が響く。シャーロットが叫ぶのも仕方が無い。上半身裸のリリスがジルとキスをしているではないか。ジルがリリスの服を無理矢理剥ぎ取り、その上、唇まで奪った。シャーロットからはそう見えたのだった。いくらジルとはいえ、淑女としてそんな暴挙を許すわけにはいかなかった。思わず、船全体に響き渡るほどの大きな声をシャーロットは上げた。


「……ん」


 その声に反応するようにリリスがゆっくりと目を覚ました。

 唇に肌の触れる感覚、目の前にジルの顔のアップ。


「きゃ~!!! な、なにを……ひとが気を失っているスキに‼」


 リリスは目を覚ますなり、ジルを突き飛ばして悲鳴を上げる。


「いや、違う、誤解なのだ」

「なにが、誤解なのですか! 少しはあなたという人を見直していたのに、やっぱり最低ですね」

「そうですわ、それも乙女の上半身を裸にして、何をするつもりだったのですか! 恥を知りなさい!」


 シャーロットの言葉にリリスは自分が服を脱いでいたことを思い出し、あわてて服を着ながら文句を言う。


「リリスもロッティも落ち着け。おい、老人! お前からもなんとか言ってやってくれ」


 慌てたジルは、笑いを抑えているマリウスに助けを求める。

 助けを求められたマリウスはひとつ咳払いをして、ジルの擁護を始める。


「リリスもシャーロット様も落ち着いてください。先ほどの殿下の行為はお嬢様の事を思っての行為でございます。決して邪な気持ちがあっての行為でないことを、この儂が保証させていただきます」


 そう言って、老人の姿になったマリウスはうやうやしい頭を下げて、説明する。


「リリス、このご老人は?」

「あ、マリ……」

「シャーロット様、失礼いたしました。わたくし、マリウスの祖父に当たるマリノスと申します。親子三代、ロランド家の従者をさせていただいております。孫からお嬢様が行方不明となったと連絡を受け、はせ参じました。以後お見知りおきくださるようお願いいたします」


 思わずマリウスと言いかけたリリスの言葉を遮り、マリウスは、万が一少年の姿以外になった時を想定して立場を設定していた。ちなみに年齢によって父親、兄などの設定もある。


「え、お前……」


 目の前でマリウスが老人の姿になるのを見ているジルは、今更ながらその異様さを思い出した。


「殿下、詳しいお話は後にして、まずはこの老人を安全な場所に移動させるのと、カイル様の確保を優先させては如何でしょうか?」


 マリウスは詳しくは後で説明するので、この場では黙ってくれと、その言葉の裏と瞳に込めて、ジルに提案する。そのマリウスの意図はジルにも十分伝わった。自分の理解の外にいるマリウスの言葉をここは尊重しようジルは素直に従った。


「そ、そうだな……分かった。ロッティ、リリスを誘拐していたのはこのカイルだ」


 ジルはカイルの服を利用して、気絶をしているカイルを拘束する。


「ゆ、誘拐ってどういうことですか? リリスは病気で、その療養のためにこちらに来たのではないのですか?」


 シャーロットはリリスのお見舞いに行ったとき、クロエからそのように聞かされていた。


「いや、それはリリスが誘拐されたのを隠すための方便だ。実際にはカイルが誘拐して、この部屋に監禁していたのだ」

「なんのために?」

「それはこれから、じっくりカイルから聞き出す。それよりもカイルに刺されたハ……」

「ご老人が身を挺してお嬢様を助けてくださいました」


 危うく、銀髪の老人の正体を口走ろうとするジルの言葉をまたもやマリウスが遮った。


「よくわかりませんが、リリスが無事であることはわかりました。良かったですわ」


 混乱するシャーロットは当初の目的、リリスの様子を確認する事ができて無理矢理納得することにした。無駄な詮索をしないと言うことは淑女のスキルのひとつと言わんばかりに。

 こうして、リリスとジルの唇に小さな熱を残して、リリス誘拐事件の幕は下りたのだった。

マリウス、マリオス、マリエス、マリノス

さて本名はどれでしょう。

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