第42話 ジルのお願い
あの女は、なぜにこうも俺の心を乱すのだ。将たる者、いつでも冷静でいなければならないのに。ジルはマリウスから話を聞き、王宮に戻る途中の馬車の中で、自問自答していた。
生意気で自分の意見を曲げない頑固者。そうかと思えばコレットに向ける優しげな態度。それでいて危なっかしくて目が離せない。戦士と母と乙女が共存したような不思議な存在。
ジルがこれまで会ったことがないタイプの女性。
ジルの周りには自分に付き従う女性ばかり集まってくる。例外は幼馴染みでもあるシャーロットと唯一の妹のコレットだけだった。
女は黙って俺についてくれば良い。ジルはずっとそう思っていた。
しかし、最近ではそれが物足りなく感じ始めていた。
「俺に黙っていなくなりやがって」
ジルは誰に言うでもなく、つぶやいた。そして、コレットを産んで三年後に死んでしまった母親を思い出していた。
コレットに似た女性だった。いつも穏やかな笑みを絶やさない優しい母親だったが、間違った事には厳しかった。それは、ジル達だけでなく、夫である国王にも毅然とした態度で意見を言うのを小さい頃のジルも何度か見たことがあった。
優しく、強く、そして好きだった母親が日々弱っていくのを見るのがジルはつらかった。
コレットが病気になり、母親と同じようになるのではないかと不安になった。何も出来なかった小さなジルとは違う。そう思い、ジルはコレットの病気を治す薬や医者を探した。何日も何日も。しかし、結局は何の力になれなかった。コレットの病気が治ったのは、全てリリスのおかげだった。
そのリリスが行方不明になった。
今度こそ力になる。それだけの力が今の自分にはあるはずだ。ジルは自分にそう言い聞かせていた。
そう、俺ひとりの力で無くて良い。
この街で起こったことならば、治安部隊を使えば良い。それを使える力が自分にはある。
ジルは集められた兵達を見つめながらそう考えていた。
「殿下、どうかしましたか?」
「いや、何でも無い。続けてくれ」
リリスの家から戻ると、ジルは王都を警備する兵をできる限り集めさせていた。
今日の夜勤予定の兵士。
その数、およそ五十名。城壁で外敵を監視する兵士は除いて、街を警備する兵士の全てであった。
「学院に通う貴族令嬢が三日前から行方不明になっている。特徴は……」
グイドがジルに代わって状況を説明する。
「みんな。忙しいところ申し訳ない。行方不明になっているのは俺の友人で、妹のコレットの恩人だ。なんとしても見つけて欲しい」
そう言ってジルは兵士に深々と頭を下げた。
兵士達はこれまでジルが頭を下げたのを見たことがなかった。それ故に行方不明の女性がどれほど重要なのかすぐに分かった。
ジルにとって重要な人物。つまり、ジルの恋人が行方不明になったと、その姿を見た全ての兵士が理解した。
普段は戦士として訓練や規律に厳しいジル。しかし、ジル自身にも同じか、それ以上に厳しい。そして、職務においては部下の話をしっかり聞いてくれるため、ジルは兵士から信頼されている。
そのジルからのお願いである。
兵士たちの士気は静かに燃え上がっていた。
その士気はこの場にもいない全兵士に伝わり、昼夜を問わず捜索が進められた。
誰もがすぐに見つかると思っていた。
広い王都であったが、兵士達はその治安を任せられている。自分達はこの都のことについて知り尽くしていると自負していた。
それなりの人脈もあり、リリスの行方の聞き込みも欠かさなかった。
兵士達は、街の隅々まで捜索をしたのだった。
普段命令しかしてこない上司から、お願いされるとテンション上がりませんか?
上がらない。そっか~(遠い目)




