第41話 マリウスの願い
「お嬢様は三日前から行方不明になっています。シャーロット様のお茶会に呼ばれてから、帰ってきておりません。この三日間、街中を探したのですが手がかりすら見つけられませんでした。そこで、殿下のお力でお嬢様を探していただけないでしょうか?」
ジルはじっとマリウスの話を聞いていた。
部下の報告を聞き、状況を把握する。将としての基本となる能力。
「ロッティの家は出たのか?」
「はい、サリー様と一緒にシャーロット様の屋敷を出たところまでは確認しています。ただし、途中でサリー様の馬車を降りて、一人、歩いて帰ったと言うことです。その途中から行方不明になっております」
マリウスの話を最後まで聞いて、ジルは口を開いた。
「ふむ、そうすると事故か事件に巻き込まれたと考えるのが自然か。ここ数日、大きな事故や事件があったと言う報告は聞いていない。あれでも曲がりなりに貴族だ。事故などがあれば俺に報告が上がってくる。そうするとまだ表面化していない事件か? 誘拐であれば犯人から何らかの接触があるはずだが、なにかそういったものはあったか?」
王都の治安部隊のトップであるジルのもとには毎日、報告が上がってくる。庶民同士のいざこざなどは気にも求めないが、大きな事件、特に貴族がらみについては常日頃から気を払っている。
そのジルの所にここ数日、貴族がらみの報告は入って来ていなかった。そのため、事故の線は低い。殺人事件や傷害事件であっても貴族が絡んでいればジルの耳に届く。よほど当事者が隠していなければ。
そうすれば、考えられる選択肢は誘拐だった。犯人から何か要求があれば、それを手がかりに、リリスを救出して、犯人を捕らえることも出来る。
「何もありません。何もないので困っているのです」
「それでは……考えたくはないが、すでに殺されて隠匿されている可能性も視野に入れた方がいいな。物取りに遭って殺された。いや、それならば遺体はそのまま放置されて、発見されるはずだ。通り魔でも同じだな。わざわざ遺体を隠さない。恨みによる犯行も考えられるな。計画的な犯行であれば、遺体の処理まで考えられているだろうから、見つけるのは一苦労だ」
ジルは天井を見ながら、冷静に最悪の可能性を考える。ジル個人としてはそんなことは考えたくはない。しかし、ジルの職務上、あらゆる可能性を考えてしまう。
その可能性をマリウスはきっぱり否定した。
「お嬢様は生きておいでです」
ジルはそうはっきりと言い切ったマリウスの目をじっと見る。その瞳は願望で言っているのではない。明らかに確信を持っている瞳だった。
「なぜ、そう、言い切れる?」
「理由はお教えできませんが、確証はあります」
マリウスがそう言い切ったにもかかわらず、理由を言えない。それは説明したとしてもジルに信じてもらえないからだ。
リリスの心臓の代わりに動いている賢者の石。マリウスが発動させたため、賢者の石の稼働具合はマリウスにも感じる。そのため、今なお、賢者の石は正常に稼働していてリリスが生きているということは分かる。
しかし、それだけだった。
どこにいるかも、どのような状態かも分からない。眠っているのか起きているのか、健康なのか怪我をしているのかも分からない。
そのためマリウスはリリスがサリーと別れた所から、家までの間を中心に街中を捜索していたのだった。
そんなことを言えないマリスの様子を見て、ジルは何かを感じ取ったようだった。
「……そうだな、あの女が簡単にくたばるとは思えない。分かった、動かせるだけの兵を使って捜索させる。お前はゆっくり休め。ご苦労だった」
「ありがとうございます。お嬢様をどうかお願いいたします」
数百年生きているマリウスにとって、他の者が自分より先に死ぬと言うことは当たり前の事だった。
しかし、それでもマリウスにとってリリスは、十歳の若さで死んでしまった自分の娘リリーの生まれ変わりのように大事に思っていた。だからこそ、魔法使いにとって生涯を掛けるほどの宝である賢者の石を何の迷いもなく使用できたのだった。
また、失うのか?
その恐怖がマリウスから冷静さを失わせていた。
人を頼る。
たった、これだけのことを忘れるくらいに。
ジルが尋ねてくれなければ、明日もあさっても無駄に時間を費やすだけだったに違いない。
無事に帰ってきてくれ。
マリウスのたった一つの願いだった。
突然の有事には、なかなか冷静に対処するのは難しいですよね




