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第3話 リリスとサリーとシャーロットのお昼休み

 お昼休み。室内には広く整った食堂が完備されて、グループごとに食事をしていたが、どのグループにも属さないリリス達は、いつものように中庭で昼食をとっていた。

 手入れされた色とりどりの美しい花々が咲き乱れる中庭は、リリスのお気に入りの場所だった。天気の良い日はいつもここで昼食を取るのがリリスのささやかな喜びだった。お気に入りの場所と親友達ととる昼食。

 春の暖かな陽が当たるテーブルに四人が座っていた。


「大変だったわね、リリス」


 サリーは従者のいれた紅茶を飲みながら、今朝のことを思い出していた。


「びっくりしたわ。なんで、たかだか田舎娘のわたしが、あそこまで言われないといけないのか不思議だわ」

「入学式の一件以降、リリスはお嬢様方に目をつけられているのだから、気を付けないとね」


 この学院は一月の新年行事が終わった二月から新学期となる。

 新学期にリリスはカゴ一杯のクッキーを焼き、みんなに配ったのだった。

 王都とは言え、まだ甘いものは貴重である。そんな中、リリスの故郷であるロランド領唯一の特産品の砂糖をふんだんに使ったクッキー。

 なけなしのお金をはたいた最高級の小麦とバターを使用した自慢の一品だった。リリスの野望のため、令嬢、令息たちへのあいさつ代わりの手土産。

 リリスの野望、その計画名は『友達百人計画』。食料品も特産品も乏しいロランド領地と良い条件で取引をしてもらえるように、各領地の令嬢令息と仲良くなることがリリスのこの学院に通う最大の理由であった。

 本来であればリリスは、こんな学院に来るよりも領地で荒れ地の開墾の指示や農地の様子を見たかった。しかし、父親とマリウスに他の領主とつながりを持つことは、後々領地のためになると、何度も何度も説得されてこの学院に入学したのだった。


 リリス会心のクッキーと、この日のために超練習した笑顔で、出だしは上々だった。みな、クッキーを口に運び、そのバターの香り、優しい甘さ、歯ごたえはあるもののほろりと崩れる歯ごたえに賞賛を口にしていた。

 それが、ある男の登場で空気が変わったのだった。

 その男とはあのジル王子だった。甘い物に興味がないどころか、「そのような物を食べる者は軟弱者だ!」と言い放ったのだ。

 それはジル個人の感想に過ぎなかった。

 しかし、教室のボスにそう言われて、まず同じ男性である令息たちがクッキーを置いて、リリスから離れていった。

 そして、その様子を遠巻きに見ていた令嬢の一人が「点数稼ぎじゃないのですか? 」と、ある意味リリスの目論みをつぶやいた時、他の令嬢たちが迎合するように離れて行ってしまったのだった。


 唯一、サリーを除いて。

 「おいしい食べ物に罪はないし、自分も知り合いひとりいないこの学院に入学して不安なの、友達になりましょう」とサリーは言ってくれたのだった。

 サリーはリリスと同じ田舎出身のためか、気が合った。


「王子(軍事力)様の考えることはわたしには理解できませんわ。それより今日はデザートを持ってきたの。みんなで一緒に召し上がりましょう」


 リリスの言葉にマリウスはカゴから大きなアップルパイを取り出した時、女性の声がリリスたちに投げかけられた。


「あら~田舎娘さんたちは部屋の中では食事ができないのかしら」


 縦ロールの髪が美しい、背の高い女性は、大きな胸を強調しながら近づいてきた。朝、リリス達の遅刻寸前の登校を注意したシャーロットだった。


「あら、シャーロット様(小麦)。今朝はご忠告ありがとうございます。ああ、そうですわ。シャーロット様(小麦)もおひとつどうですか?」


 リリスはシャーロットがこちらに近づいてくるのを見て、そう提案したのだった。

主人のお言葉に反応して、マリウスがアップルパイを切り分けてくれる。


「サリーさん(りんご、卵)から良いりんごを頂きましたのでりんごジャムをつくりましたの。新鮮な卵もいただいたので美味しいカスタードもできましたので、良いできだと思いますよ。今朝、焼きたてのサクサクですよ」


 入学してすぐ、サリーの田舎から送られた新鮮なリンゴとリリスの砂糖を使って大量のジャムを作ったのだった。そして定期的に送られてくる取れたて卵。サリーは毎朝、卵料理を食べているのだが、それでも余ってしまうらしい。そのお裾分けでリリスは、いろいろなお菓子の材料にしていたのだった。

 そのリンゴジャムとカスタードで作ったアップルパイを、シャーロットはしばらく見つめる。どうしようか迷っている様子だった。


「シャーロット様、甘くて美味しいですわよ」


 サリーは先に一口食べてシャーロットを誘う。シャーロットも心が引かれるが、上級貴族としてのプライドが邪魔をする。


「そういえば、シャーロット様(小麦)の故郷の小麦はやはり良い品ですわね。市場に行っても上物は全てアマデウス産ですものびっくりしましたわ。まるでシャーロット様(小麦)の肌のように白くきめ細かくて良い物ばかりでしたわ」


 リリスの言葉に、一瞬にしてシャーロット・アマデウスの顔がほころぶ。


「と、当然ですわ。我がアマデウス領は、この国最大の小麦の生産地ですもの」

「そうすると、このアップルパイはシャーロット様(小麦)とサリーさん(りんご、卵)のお二人の特産品で、できておりますわ」

「そ、そうですわね。領主の娘として領民の努力の結晶を無駄にすることはできませんわね。いただきますわ」


 マリウスはシャーロットの従者の分も取り分けた。

 シャーロットはマリウスから直接、アップルパイを渡されて、ますますにっこりとして、マリウスの隣に座る。


「ありがとう、マリウス君」


 シャーロットは先ほどまでリリス達に話していた口調とは打って変わって、優しくお礼を言い、優雅にパイを口に運ぶ。

 さくっとしたパイの小麦の香ばしさと芳醇なバターの香り、りんごのジャムの甘酸っぱく程よい歯ごたえ、カスタードの卵の旨みが程よいハーモニーを奏でている。


「美味しい!」


 その美味しさにシャーロットは思わず声を出す。

 主人が口をつけたのを確認して、シャーロットの従者もアップルパイを口に運ぶ。


「お嬢様、これは美味しいですね」


 シャーロットとその従者は、思わずお互いの顔を見合わせた。


「収穫前のアマデウス家の領土は、シャーロット様(小麦)の髪のように鮮やかな金色に輝いて、さぞお綺麗なのでしょうね」


 リリスは自分の領地では、到底見られないほど広大なアマデウス領の小麦畑を思い浮かべる。いつかは自分の領地でそのような風景が見られることを夢見て。

 シャーロットも懐かしの愛する自分の領土に思いをはせているようで、独り言のようにつぶやいた。


「ええ、見渡す限りの金色の畑は、それは本当に美しいわよ。秋風に吹かれてそよぐ穂などは絶景ですわよ。あなたたちにも一度見せてあげたいわよ」

「ぜひお願いします。約束しましたからね!」


 リリスの返事に、シャーロットは自分が何を口走ったのか気がついた。

 しかしシャーロットは貴族令嬢のプライドもあり、リリスの言葉を否定するようなことは出来なかった。


「あ……ええ、よろしいですわよ。ただしひとつ条件がございますわ」

「なんでしょうか?」


 シャーロットは、もじもじしながら顔を少し赤らめていた。そして、リリスの可愛らしい少年従者を見た。


「マリウス君も一緒に来てね」


 シャーロットはマリウスの小さな手をそっと手に取った。


「はい!」


 マリウスはその青い目をまっすぐシャーロットに向けて、手を握り返して、天使の笑顔で答えた。

 その後、三人の令嬢達は昼休み一杯、おしゃべりをして、心の距離を詰めたのだった。

アップルパイは大好きです。

パイシート便利!

電子レンジを使えばカスタードも簡単にできるから、今は手軽に作れて美味しいですよね。


ちなみにシャーロット様をチョロインって言うなw

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