第38話 コレットとの約束
コレットは先ほど同様、お嬢様方に囲まれた口々にハシームについて教えられる。
素敵で優しくて、ユーモアにあふれて、男らしくて、かっこよくて、真面目で遊び上手で、頼りがいがあり、包容力があり、かわいらしく、接する人をほっとさせるなど、ありとあらゆる賞賛の言葉で、どれだけハシームが魅力的かを四方八方から説明される。
「そ、そんなに魅力的な殿方でしたら一度会って見たいですわ。それでは、お姉様とちょっとお話をしてきますわ」
周りの言葉に気圧されて、早々にリリスの元に逃げ出した。
「お、お姉様、みなさまをあんなに虜にするハシーム様ってどんな方なのでしょうね」
「まあ、美形ではあるのですが……」
「何かあるのですか?」
「どことなく、嘘っぽい感じがするのですよ」
コレットの言葉にリリスはなんとなく感じていた事を口にする。
「嘘っぽい……ですか?」
「ええ、なんとなく作り物っぽい感じがするのです……まあ、わたしたちには関係ない話ですね。それよりも、先日話していたトウモロコシが実をつけ始めましたよ。指くらいの大きさでかわいらしいのですよ。よろしければ一緒に収穫しませんか? 今度のお休みの日にでも」
コレットは花が好きなので、リリスはよく植物の話を聞かせた。ただ美しいだけではない。子孫繁栄のためにいろいろな手を使って受粉をして、実をつける。
そうして実った野菜を、果実を、人が、動物がいただく。
ただ料理となったものだけを並べられる。気に入らなければ食べずに捨てられ、代わりの料理が並べられる。
コレットにとって当たり前の事で、どのように材料が準備されて料理されたのかなど全く考えたことがなかった。
これはコレットだけではない。ここにいる令嬢のほとんどがそうだ。
畑の土など触ったこともない。
そのため、リリスの畑仕事や植物の成長など農家にとって当たり前の事も、コレットにとっては刺激的な話だった。コレットの上の二人の兄、イアンやキースが聞いていたら、王女であるコレットには必要ない話だ。そんな事に興味を持つくらいなら、ダンスや作法をもっと練習しろと怒られるかも知れない。しかし、花が好きなコレットが、その花の表面的な美しさだけに捕らわれず、植物としての根本的なところまで詳しく知ろうとする姿をリリスは好ましく感じた。だから、マリウスがリリスに対してしてくれたように、リリスは自分が知っている知識、経験をコレットに教えて、経験させようと考えていた。
「ええ、楽しみにしていますわ。お兄様もご一緒してもいいでしょうか?」
「え、ええ、もちろんよ」
「ありがとうございます。お兄様も喜びますわ」
リリスとしてはうるさいジル抜きの方がありがたいのだが、万が一、コレットに何かあったときはジルがいた方が便利であった。いくらコレットが小さな女の子でも、リリスが抱きかかえて移動するのは難しい。ジルがいれば軽々と抱きかかえて、安全なところに運べるだろう。そんなリリスの考えで、ジルの同行に同意したのだった。
コレットは初めて行う収穫というものにも当然楽しみだった。そしてそれと同じくらい、大好きな兄と、同様に大好きなお姉様の二人と一緒に居る時間が嬉しかった。
「では、今度のお休みの日ですね。約束ですわよ」
コレットはエーデルワイスの花のような可憐な笑顔でリリスと指切りをした。
「ええ、約束ですね」
無垢で愛らしい笑顔を見るとリリスも自然と笑顔になる。
こんな笑顔でされる約束を誰が破れるだろうか。天気が悪くなければ良いな。当日はお弁当を持って行こう。デザートも用意をして、ピクニック気分で、暖かい日差しのもとで楽しくおしゃべりをしながら、取れたてのトウモロコシを食べて。
リリスは、その日は最高の一日にするため色々なことを考えていた。全てはコレットのために。
~*~*~
しかし、この約束は果たされなかった。
とれたてのトウモロコシと言うとト〇ロを思い出しますね~




