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第34話 ハシームとジルの鞘当て

 次の日、銀色の嵐はまたもや吹き荒れた。

 朝の教室で、ハシームはリリスを待ち受けていた。


「昨日は失礼しました。タルトのお礼にこちらをどうぞ」


 ハシームは片膝をつき、両手いっぱいの花束をリリスに差し出していた。

 赤やピンク、黄色に白、色とりどりの花々から醸し出される甘い香りがリリスを包む。

 古今東西、女性が喜ぶプレゼントの一つ。

 ハシームがその花束を持って教室に入ってきたとき、それを渡す相手が誰なのか教室内でささやきあっていた。その相手がリリスだとわかると、残念なため息が教室中を包む。


「結構です」

「え⁉」


 ハシームは予想していなかったリリスの返事に思わず、驚きの言葉をあげる。


「結構です、と言いました」


 リリスはハシームが聞き間違いの無いようにはっきりと断った。


「なぜだ? 花は嫌いか?」

「花は好きですが、あなたからそれをいただく理由がありません」


 リリスはコレットに話をしたように花は好きだ。ただし、それは生きている花。特に野菜や果実をつける花が好きなのだった。花束のように切り花はあまり好きではなかった。

 それよりもプレゼントがカゴ盛りフルーツであったならば、リリスは戸惑いながらも受け取っていただろう。ハシームのリサーチ不足だった。

 しかし、ハシームは食い下がった。


「こんにちは、お嬢さん。ぼくも一緒にいるよ。ぼくの事も嫌いかな?」


 花束の中に隠れていた羊毛のフェルト生地で出来た猫を出して来た。

 猫の嫌いな女性はいない。花と猫のダブルパンチならばどんな女性とでも戦える。ハシームはそう、考えての二段攻撃だった。


「ぼくの国の羊毛で作ったんだ。よかったら受け取ってくれないか?」


 ハシームは少しおどけてウインクをする。

 そのハシームとプレゼントを交互に見たリリスは答えた。


「でもその猫はネズミを捕ってはくれませんよね。どうせなら、食料を食い荒らすネズミを捕ってくれる本物の猫の方がわたしは好きですね」

「なっ!」

「ははは、ハシーム殿、見事にふられましたな」


 絶句するハシームに追い打ちをかけるようにジルが口を挟んだ。

 リリスがどのような反応を示すかわからなかったため、黙ってことの成り行きを見守っていたが、リリスがきっぱりと断ったため口出しをし始めた。なぜか誇らしげに。


「何をおっしゃいますか、ジル殿。ただ、花束を受け取っていただけなかっただけで、その結論は早いのではないですか?」

「そうかな? 少しでもリリスが貴方に好意があるのであれば、花束の一つ、受け取ってもらえると思うがね」


 当事者のリリスを放って二人はヒートアップする。


「ぐっ!」

「そもそも、ハシーム殿、貴方はこのリリスの何を知っている? なぜ、こいつに執着をするのだ?」


 リリスもそこが気になった。よくぞ訊いてくれたと、リリスは心の中でジルを褒めた。

ジルはコレットの治療のため、リリスの力が必要と思っているし、実際にリリスの料理のおかげでコレットは順調に体調を取り戻していった。そのため、ジルがリリスのことを気にかけていることは理解している。カイルに関しては、ジルがリリスに対し、他の女性とは違う態度を示しているため、興味本位でリリスにちょっかいを出して来ていた。しかしハシームが自分に対して、このような態度をとる理由がリリスにはわからなかった。ハシームの転校初日に見せた女性陣の態度から、その気になればどの女性とも付き合えるのではないかとリリスは思っていた。


「ほぅ~ジル殿はリリスの魅力がわからないとそうおっしゃるのですね」


 これまでジルにやり込められている形になっていたハシームが、反撃の狼煙を上げた。


「リリスは誰よりも優しい。そしてそれだけでなく、自分自身の信念があり、それを行動に起こせる女性だ。何よりも彼女の芯の部分になる温かな物をぼくは感じ取ったのだよ」


 ハシームは一気にまくし立てる。その勢いにジルが気圧されてしまう。


「ジル殿はリリスのそんなところを知らないとは言いませんよね」

「当然だ。リリスは男の俺に一歩も引かず、自分の意見をぶつけてくる一本、芯の通った良い女だ」


 ちょっと待った! あなたはそんなわたしを生意気だと文句を言っていたのではないか? リリスは心の中で盛大に突っ込んだ。


「ならばわたしがリリスに花束を渡そうとする理由がわかったでしょう。邪魔をしないでいただきたい」


 そう言って、ハシームはジルを押しのけてリリスに近づこうとする。

ジルはそれに抵抗してリリスの手を引っ張り、抱き寄せる。

 突然のことにリリスは抵抗することができず、ジルの筋肉質な胸に抱きしめられる。


「リリスが、貴方のことを受け入れるのであれば、仕方が無いと思っていたが、そうでないのであれば、俺はこいつを守るだけだ」


 ジルはリリスを片手で抱きしめて、もう片方でハシームに牽制するように手を伸ばす。


「ジル様(軍事)離してください。なんで、あなたがこのようなことをするのですか?」


 リリスの言葉にジルは、一瞬考え込む。何のために?


「お前がこいつと話しているのを見て、なんとなく嫌だと感じたからだ。お前も嫌がっていたではないか?」

「嫌がっていると言うよりも、ハシーム様(羊毛)からこのようなことをされる理由がないと言っているだけです」


 リリスはジルの胸を押して、その抱擁から逃げ出した。突然のことにリリスはドキドキとしていた。このように男性に抱きしめられるなど、初めてのことだった。その鋼のように鍛え上げられた筋肉は思ったよりも弾力があり、暖かかった。


「そ、そうなのか?」


 リリスの言葉にジルは多少なりと動揺していた。自分はハシームからリリスを守ったつもりでいたのだが、それはリリスにとって迷惑な行為だったのではないか? そのように思い始めてきた。


「ハシーム様(羊毛)もジル様(軍事)このようなことはやめて、普通に接していただけると大変助かります」


 リリスはそう言い捨てると、呆然としている二人の王子を残して、さっさと自分の席へと戻っていった。

 ざわつく教室。

 その中で、誰にも聞かれることなくつぶやく恨みの声が一つ。


「あの女め……」


 そのブラウンアイは嫉妬の炎に燃えていた。

喧嘩をやめて~♪二人を止めて~♪

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