第23話 いつもの朝の風景
翌朝、リリスたちはいつもよりも早く家を出て郊外の畑へ向かい、雑草を取って育成具合をノートに書き留める。
その後、コレットのために朝市へと向かい、食材を探す。
この市場は野菜が新鮮で、種類が多い。取れたての魚や肉も豊富に並んで居た。
市場の人々に声をかけながら、ある食材に目をつけた。
「マリウス、これって脚気に効きますか?」
「おそらくな。そうだな、スープが良いだろうな」
そんな会話をしながら市場を散策した二人。マリウスの手には簡単な畑道具や市場で買った食材の入った袋があった。リリスは自分で持つと言っていたが、従者がいるにもかかわらず、貴族が荷物を持っているのはおかしいとマリウスに言われて、渋々マリウスに預ける。最低限の荷物を自ら持って。
そして、用事を済ませていたが、始業時間までには十分余裕がある時間にリリス達は学園へと到着した。学院の門をくぐると、リリスは学院モードに気持ちを切り替える。
「おはようございます」
リリスはとびっきりの笑顔で教室に入る。いつもの冷たい視線を覚悟しながら。
「リリスさん、あなたは神聖なる学び舎をなんだと思っているのですか? その荷物はなんなのですか⁉」
親友のサリーが朝のあいさつを返してくれる前に、カトリーヌが開口一番、リリスに文句を言ってきた。
簡単な畑道具やコレットのための食材を入れた袋をめざとく見つけたためだ。
貴族は最低限の物しか持たないのが流儀。極論を言うと女性であれば扇子一つだけ。そのほかは従者が持つ。荷物が多くなれば従者の数を増やす。しかし、マリウスしか従者のいないリリスは袋をマリウスに持ってもらい、ノートなど授業に必要な物は自分で持ってきたのだった。
「今日は用事がございまして、荷物が多くなってしまったのです。マリウスはまだ小さいのでわたくしも荷物を持つことになってしまったのです」
それを聞いたカトリーヌの茶色い瞳がキラリと光った。
「田舎貴族はまともな従者も雇えないのですか? そのような人と同じ学び舎にいるかと思うだけで、恥ずかしくなってしまいますわ。もう、田舎へ戻った方がよろしいのではないですか?」
カトリーヌは美しい装飾を施された扇子をビシッとリリスに向けて、教室から出て行けと言わんばかりに言い放った。
リリスが反論をしようと口を開きかけたとき、教室のドアが開き、一人の男性が従者を率いて入ってきた。
ジルだった。
リリスを見つけるなり興奮気味に大声を出して近づいた。
「リリス! お前は朝っぱらからどこに行っていた。俺が迎えに行ったのが無駄になったではないか!」
また、リリスが何かやらかして、ジルを怒らせたと、ざわつく生徒たち。
リリスはジルのその勢いに思わず教室から逃げだそうとして、マリウスに押さえられる。
「あ、おはようございます。殿下(軍事)」
無理矢理作った笑顔が引きつっているのを自分でも感じながら、リリスは挨拶する。
「朝からどこに行っていたのかと聞いている! 一緒に学院へ行こうとお前の家に行ったら、すでに出かけた後だと言うではないか」
「わたしの家に来たのですか? いや、それよりも何で、わたしの家を知っているのですか⁉」
リリスはマリウスの件があるため、親友のサリーにも家のことを話していない。ただ、知り合いの家にお世話になっているとごまかしている。
先ほどまでカトリーヌの対応をしようとしたリリスの頭に、ジルの言っていることが徐々に入ってきた。
「そんなことはどうでも良いだろう。それよりも俺の質問に答えろ!」
「な、なにをですか?」
「だから、朝っぱらからどこに行っていたのかと聞いているのだ」
なんで、そんなことを聞かれるのか、リリスにはさっぱり理解できなかった。
昨日、ジルとなにか約束したか、必死で思い出す。
しかしどう思い出しても、コレットに治療を手伝うと約束しただけで、ジルと仲良く登校するなど約束していないし、約束するはずがなかった。
「わたしの畑に行っていたのです。昨日様子を見に行けなかったので……その後は市場に寄って栄養豊富な野菜を探していました」
また、貴族的ではないと怒られるかもしれないと思いながらも、はっきりと答える。中途半端に答えて、痛くもない腹を探られるのをリリスは嫌がったのだった。
案の定、周りの生徒から「さすが、田舎貴族」だとか「この学院にふさわしくない」だとかリリスに聞かせるようにささやき合っていた。
リリスは自分に直接言ってこない連中は無視して、目の前にいるジルの言葉に身構える。
次はどんな難癖をつけてくるのか? しかし、リリスが予想していた言葉は返ってこなかった。
シャーロット様が悪役令嬢の座を降りてしまったので、悪役令嬢カトリーヌ頑張る。
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