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第22話 王宮からの帰り道

「リリスさん。ありがとうございます」


 王宮を出て、帰りの馬車でシャーロットはリリスにお礼を言った。


「いえ、お礼を言うのはこちらです。今日は急に押しかけたにもかかわらず、お願いまで聞いていただいてありがとうございました」


 リリスは慌てて頭を下げる。シャーロットがマリウスを気に入っているのを知っていて、それを利用した後ろめたさを隠してお礼を言う。


「ジルとわたくしは幼馴染みという話は知っていますよね。コレットとジルは年が離れているとはいえ、あの子は年の一番近いジルに懐いているのよ。ジルもそんなコレットをそれはもう大変可愛がっているの。まるで自分の娘か恋人のように……わたくしもあの子を実の妹のように思っているのです」


 シャーロットはまるで小さい頃を思い出しているかのように、優しい瞳で語る。そして悲しみと怒りを含んだ瞳になる。


「それなのに、病気であることすら知らされず、そのことにも気づかないわたくし自身が悔しくて悲しくてどうにかなりそうでしたわ。あなたたちが来てくださって本当に良かったですわ。あのままコレットに万が一のことがあっていたなら、わたくしはジルのことを一生、許せないでいたでしょうね。本当にありがとう。それにあなたのおかげで、コレットも元気になりそうですし……」

「シャーロット様(小麦)、まだ楽観視するのは早いです。できる限りのことはさせていただきますが……」

「よろしくお願いいたしますわ。リリスさん」


 シャーロットはリリスの手をじっと握った。リリスは、握られた手から、お願いと共にどうやってもコレットを救ってほしいというシャーロットの強い圧が感じられた。


「ふふふ、それにしてもあんなに素直に頭を下げるジルの姿が見られるなんて、今日は珍しいものが見られましたわ」

「あれにはわたしもびっくりしました。まさか、頭まで下げるなんて、よっぽどコレット様が大事なのですね」

「ふふふ、ジルがコレットのことを大事に思っているのはそうですが、わたくしにはそれだけじゃないように思えたのですがね」


 シャーロットはちょっと意地悪そうな笑顔をリリスに向ける。


「それは、どういうことですか?」


 リリスは訳が分からないというようにシャーロットに尋ねる。

 コレットの事はもちろんのこと、あんなにきつく当たったジルに対してその体調を気遣ったリリスにシャーロットは驚いた。コレットのことに頭が一杯で、幼馴染みのジルの体調を見抜けなかった自分を恥じるシャーロット。それを当たり前かのようにジルの体調を気遣ったリリス。そんなリリスに対してまで意地を張るほどジルの性根はねじ曲がっていなかった。しかし、そんなジルの気持ちを代弁するほどシャーロットは素直ではなかった。


「さあ、どういうことでしょうね。あ、着きましたわよ」


 シャーロットに送られて、リリスたちが家に着いたときはすでに日が暮れ始めていた。

 それでは明日学院でお会いしましょう、と挨拶をしてシャーロットが乗った馬車を見送るとリリスは、ようやく気が抜けたようにしゃがみ込む。


「マリウス様、あれでよろしかったでしょうか?」


 ずっと気になっていた。コレットの病気が本当に脚気だったのだろうか。もしかしたらリリスが見落としているだけで、別の病気かも知れない。そんな不安がずっとリリスの心の片隅にあった。しかし、ほんの少しでも不安を表に出せば、患者であるコレットが不安になり治療を受けてくれなくなる可能性があった。だから、そんな不安は無理矢理、忘れることにした。

 しかし、家に着き、マリウスと二人っきりになり、その不安は爆発的に広がった。


「そうだな。儂の見立ても脚気だな。おそらく間違いないだろう。よくやったな」


 小さな子供の姿のマリウスは、しゃがみ込むリリスの頭をポンポンと叩く。


「よかった~」

「見立てもそうだが、コレットの信頼を得てから診察したのが一番良かったぞ。患者との信頼関係がなければ、診察結果も治療方法も受け入れてもらえないからな。さあ、今日はもう疲れただろう。家に戻ろう」

「はい……あ!」

「何だ⁉」


 リリスの声に驚くマリウス。


「畑……行くのを忘れていました」

「なんだ、そんなことか。明日の朝、様子を見に行ってから学園に行けば良いだろう。儂は酒が飲みたい。ほら、帰るぞ」


 は~た~け~と言うリリスを引っ張って、マリウスは家に入っていった。

お酒大好きマリウス君

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