第20話 リリスの診断結果
「コレット様の病名は脚気です」
「かっけ? それはどんな病気だ? 治るのだろうな。人に移るのか?」
「ジル、落ち着きなさい。とりあえずリリスさんの話を最後まで聞きましょう」
焦るジルをなだめるシャーロットを見て、リリスはまずシャーロットに話をしたのは正解だったと思った。
「脚気という病気は、簡単に言うと栄養不足です。もしかして、コレット様は白米やお粥ばかりを食べていませんでしたか?」
脚気とは栄養素ビタミンB1不足で起こる病気のことである。ビタミンB1は米にも含まれるが、精米する過程でその栄養が含まれる部分は削り取られてしまう。脚気かどうかを簡単に判断する方法として、膝を叩く方法がある。正常であれば、力が抜けた膝を叩くと、本人の意志に関係なくケリ上げる反射行動が起こる。しかし、脚気患者はその反射行動が起こらない。リリスはコレットに反射行動が見られなかったため、コレットの病気が脚気であると確信した。
栄養不足で起こる脚気はマリウスが言ったように、貧乏領地であるロランド領で起こりうる病気である。そのため対処方法はマリウスから教えられていた。
リリスはサイドテーブルにある、食べかけのまま置かれたお粥を見ながら確認する。
その様子を見たジルが勝手な判断を話し始めた。
「ああ、コレットは米が好きで、コレットだけは最高級の白米をいつも食べさせていたが……米に毒が入っていたのか!? 料理人を呼べ!」
あーこの短絡バカは! と喉元まででかかった言葉を飲み込んで、リリスは猫をかぶったまま答える。
「毒は入っていません。逆です。米を精製しすぎて栄養が足らなくなっているのです」
「しかし、俺も同じ米を食べているぞ」
「殿下(軍事)は米だけで召し上がっているわけではないでしょう。他のおかずなどで栄養が取れているのではないでしょうか?」
ジルはコレットの食事を思い出す。ほとんど白米しか食べない。野菜は嫌いで、肉も食べない。そして甘い物を好む。しかし女というものはそんなものだと思っていた。それに比べて自分は特に好き嫌いなどなく、出された物は何でも食べた。戦場では好き嫌いなど言っていられない。
しかし、コレットは戦場など関係ない。一国の王女である。好きな物だけを食べれば良いと思っていた。コレットが喜ぶ物だけを。
自分のその考えがコレットの病気の原因になっているのかもしれないと、今更ながらジルは後悔した。ジルがもっとコレットに注意をしていれば……そんな思いがジルの胸にふくれ上がった。
「確かに俺は出された物は何でも食べる……じゃあ、どうすれば良い⁉」
「これから先は、コレット様次第です」
リリスはジルへの説明を切り上げて、コレットへ向き直る。
「コレット様、人の健康を司る物の一つは食事です。いろいろな物をバランスよく食べることによって栄養を補完します」
「それって……」
「つまりは好き嫌い無く、いろいろなものを食べましょう。お米だけで無く、野菜や果物、お肉や魚もバランス良く食べましょう。わたしもお手伝いをさせていただきます」
「え、でも……」
リリスは躊躇しているコレットの手を優しく握りしめる。コレットを力づけるように。
「コレット様。元気になったら、一緒にお花を見に行きましょう。ですから早く病気を治して外出できるようになりましょう」
「……はい」
「じゃあ、まず何が食べることができて、何が食べられないか教えてください」
リリスは雑談を交えながら、コレットのことを聞き出した。
コレットは草花が好きなこと。あっさりとした物が好きなこと。三人いる兄の中で、いつもコレットに優しいジルが好きなことなどをリリスと楽しく話し合った。
引っ込み思案でおとなしいだけの小さな女の子だと思っていたが、話してみると人に気を遣いながらも、意外と話し好きでリリスはただ相づちを打つだけで勝手にどんどんと話してくれた。
話を聞き終えたリリスは、そのまま厨房へ向かうと食材の確認をする。
王宮の食堂。
王族の食事を作るため、高級な食材が豊富に準備されていた。
リリスはその食材を見て、ため息が出る。美食よりも栄養。質よりも量。リリスにとってまず考えることは食事の量。その中でできる限り美味しい物を作る。貧乏故の知恵。それがこれだけの食材を見てリリスは胸の高鳴りを感じてしまった。
しかし今は食事の方向性が違う。リリスはコレットに対する食事を考える。
脚気は栄養不足により、食欲不振、体のだるさ、手足のしびれ、むくみが起こり、重度になると死亡してしまう。
それを補充するには豚肉が手っ取り早いが、食欲の落ちた今のコレットの胃袋には厳しい。ならば……。
リリスはコレットのために料理を作り始めた。
今の子たちって脚気って知らないのではないかと、不安になる。
皆子供の時、膝小僧を叩いて反射運動を見て遊んでましたよね。ねっ!




