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18.コイン判定



『獣星』の連盟員の女はおれの頭に手を置いた瞬間、崩れ落ちた。


「――はぁはぁ……戻れた……」



 顔が青ざめている。


 ランハットが突然おれに剣を向けた。



「彼女に何をしたんだ?」

「別に何も……」



 その剣をシスティナが払いのける。



「いい剣を持っているじゃないか冒険者」

「おれの剣を払える者はそうはいない。いいねぇ、ただのメイドじゃあなさそうだ」



 オズが手を叩いた。



「皆さん、ここは神殿デスよ?」

「――無事かい、ミカルディーテ?」

「は、はい……ただちょっと、経験したことの無い精神でして。混乱して……」



 彼女、名前はミカルディーテというのか。

 ランハットに付き添われながら部屋を出た。


「一体どうしたって言うんでしょう?」

「彼女、精神魔法でロイド君の精神を覗いたようデスネ」

「え? 魔法でそんなことまで?」



 というか勝手に?



「先生、わかっていたなら止めて下さいよ」

「ロイド君の精神を見て彼女がどうなるのか興味があったのよ。魔導連盟が『将星』に認めた魔導士の精神魔法を丸腰で防いだのだとしたら驚異の精神力です」


 オズの紅い眼がおれを捕らえる。

 そんなにおかしいことか?

 実際おれは何もしていない。


「あの、その『将星』って何ですか?」

「魔導連盟内の称号です。強さの格付け、冒険者の等級のようなものですね。彼女の『将星』は下から二番目。さらにその中で一等から五等に等級分けがあります。彼女は五等」

「では、そこまでの実力者ではないということですね」

「いえ、そもそも魔導連盟で魔法力が評価されるもの自体少ないです。『将星』の上の『天星』、その上の『勇星』は数人しかいません」



 オズ先生が分かりやすく解説してくれた。


 つまり将棋の段位のようなもので強さの格付けがされている。

 各称号は五等から一等へ昇格していくと次の称号に格上げされる。

『士星』・『将星』・『天星』・『勇星』・『神星』


「あれ? 『獣星』というのは? あだ名ですか?」

「まぁ、そうですね。ですが『星』を冠する呼び名は過去にいた方から継承されたもので称号でもあります」



『竜王』とか『棋聖』的なタイトルみたいだな。


「では『星章』は関係ないんですか?」

「『星章』は貢献度や学術的評価ですね。連盟員では『星』を元に五等から一等魔導博士まで序列があります」



 これは本来連盟員であるミカルディーテの仕事なのだろう。



 それにしても遅いな。



「まったく、なんてことだ!」


 そう言って入って来たのは大神官ジョセフだった。

 お怒りだ。


「で、ですが……大神官様、確かめるだけでも」

「ロイド様、お許しを。彼らは貴方様を魔物と勘違いしているようでして」

「そうでなければ『同調』を乗っ取られた説明が」


 おたおたするミカルディーテ。

 オズがやれやれと呆れた様子でため息をついた。



「魔物のはずがありませんネー! ロイド君自身が神聖術を使えます。それも驚くほど上手く」

「魔物の中に神気を操る個体がいてもおかしくありません」

「魔物が『神域』までできますか!?」

「え? ま、まさか……それは神殿の大秘術」

「ロイド様はそれをできる。一人で。どこでも!!」



 ついでに神も召喚できます。

 さすがに魔物扱いには幼気なココロが傷ついてしまった。



「全く、いくら連盟員と言えど失礼が過ぎますよ」

「す、すいませんでした。『怪童』、あなたにも謝罪します。取り乱してしまい疑いました。申し訳ありません」

「ミカルディーテさん、ぼくを疑うより、いい加減あなたが本物の連盟員である証を見せていただけませんかね?」

「はい……『同調』が効かないとなると……」



 ミカルディーテは悩み、ローブの内ポケットから銀貨を取り出した。


 今度は買収する気か?



「では私の魔法をお見せします」



 おれたちは促され、外に出た。



 ◇



 神殿の手入れをされた芝生はサッカーコートぐらいある。



 ランハットが銀貨を渡され、それを弾いた。



「『切断力を風に』」


 ミカルディーテは目隠しをした状態のまま帝国式の省略詠唱で『風切』を当てた。



 次々に弾かれた銀貨を打ち落とす。




「これは?」

「帝国式の魔法力簡易判定デスね。銀貨は魔力を通しやすいので弾く人間が魔力を込めると魔法が通りにくくなりマス。彼女は属性魔法の省略詠唱と同時に疑似精霊魔法応用精神干渉魔法を使い魔獣の視覚を共有してマス。すごいデスネ」



 彼女の頭のうえにいた鳥が上空を旋回している。

 あの鳥の視覚を共有して銀貨を把握しているのか。

 これが『同調』の使い方。


 すごいな。



「ミカルディーテの場合、格上の魔獣も操れる上に複数の対象を継続的に従魔にできる」

「お見事です。確かに王国には無い魔法だ」

「ロイド君もやってみますか? 意外と難しいものですよ」



 この判定方法はいいかもしれない。

 ものは試しだ。



 おれが頷くとオズが目隠しをしてくれた。

 ランハットが銀貨を弾いた。



 この判定は魔法の行使の速さと正確性、強さが一度に測れる。


 銀貨である意味。それは魔力の通り易さだ。

 弾く人間が魔力を込めると銀貨の魔法防御力が上がる。よってそれを超える魔法を当てなければ銀貨にダメージが通らない。



 だがこの魔力によって位置を特定できる。

 魔力感知能力も試されるわけだ。


 加えて空中に高く上がった銀貨を狙うのは至難だ。回転した銀貨は空気抵抗でランダムな動きをする。的も小さい。


 よって、コインが上がり切り、空中で一瞬制止するときに最速の魔法を高出力で当てること。



 これが攻略法だな。



『風切』が銀貨に穴をあけた。



「やるな。正確だ」

「あ、ロイド君、この判定は属性もみます。私は風の『特化型』ですが、もし使える属性魔法がほかにあればそれも評価に加算されますよ!」


 ふむ。


 やることは変わらない。


 土魔法『石礫』が銀貨に穴をあけた。

 水魔法『水流』が銀貨を弾いた。


 む、これはとっさの魔法選択も大事だな。

 水魔法は基礎級では威力が弱い。


 火魔法『火炎』が銀貨を溶かした。

 光魔法『光線』



「ちっ!」



 弾かれた。銀貨と相性が悪かったか。



「今のはまさか光の攻撃魔法!? 存在した!?」

「さすがロイド君はなんでもできますデスネ!」



 熱魔法『焔玉』が銀貨を融解した。



「攻撃力を有する『発光』?」

「今のは熱魔法デスネ……」

「上位属性まで……」



 氷魔法『氷結』で銀貨を凍らせた。



「う、うそ……氷皮族でもないのに」



 大気属性『収束』で銀貨を小さくした。

 大気圧の力で縮んだ感触があった。

 あ、でもみんな気づいていないな。



 鉄魔法『変形』を試みるがこれはダメだ。

 銀は鉄じゃないし、発動までに時間がかかりすぎる。


 目隠しを取るとミカルディーテが絶句していた。



「本当に何なの……?」



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