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幕間 ミカルディーテ・アフロント

私、ミカルディーテはロイドの精神世界の中にいた。


魔力は精神と深く結びつく。

そこに『同調』することで、意識や記憶に潜る。逆に乗っ取られるリスクがあるが、私には生来(せいらい)他者の心の壁を越える才能があったらしい。精神の逆流を防ぐ魔道具の補助で魔獣との『同調』も成功させた。


ロイドの精神にも難なく入り込んだ。



でも……


「こ、ここは?」



しばらく『同調』に成功したことに気が付かなかった。


「これが人の精神なの? あまりに現実的すぎる」


常人の精神は情報の入り乱れた渦のようなもの。

そこに自意識を確定する要素が散らばる。

私はそれを観察する。

大事なもの。信条。大切な人。記憶。それはぐちゃぐちゃな情報の中ではっきり見えるものだ。


しかし、ロイドの精神は整然とした建物だった。



「床を歩く感覚がある。それになんて精巧な壁なの……」



まっすぐの廊下には無数の扉がある。

近くのドアに手をかけた。



「開かない」



それは迷宮に似ていた。

罠こそないが、無限に続くと錯覚するほどに通路。固く閉じられた無数の扉。


「はぁ、はぁ……まさか、出られない……?」


精神は基本的に他の精神をはじき出す性質がある。異物は排除される。


ゆえに、気を抜けば精神世界から追い出される。

だが、私は体感時間で数時間、灰色の廊下を永遠に彷徨(さまよ)わされていた。



「ま、まずい……私の意識が飲まれている。精巧な建物過ぎてここを出るイメージが沸かない。仕方ないわ」



私の得意魔法は精神系の『同調』だが相手の精神を乱すこともできる。


「この堅牢な精神、多少の攻撃で揺らぐとは思えない。『破調』で隙を」


「ピンポンパンポーン♪」


「え?」


「えー侵入者さーん。無駄な抵抗はやめなさーい。あなたは完全にほーいされてまーす」


「ど、どこから……? それに私を認識している?」


「大人しくこちらの指示に従いなさーい」


私に成すすべはなく、案内に従った。

その先には暗く一際頑強な扉。


「こ、ここ? やっと出られる」



扉は独りでに開いた。


「ではここで、本日のスペシャルゲスト、ミカルディーテちゃんでーす」

「え? 誰?」



明るさに目が(くら)んだ。まるで張りぼてで作った城の一室のように胡散(うさん)くさい場所。しかし相変わらず、凄まじく手が込んでいる。

そこにいたのは、奇妙な格好をした男。

帝国の道化師が似たような格好をしている。派手で話し方はどこか演技じみていた。


「どーも、コンニチワ! ミスターレジェンドです。本日のテーマはズバリ、迷える子猫ちゃんミカルディーテ・アフロントさん(21)は無事、この記憶の神殿から脱出できるのか? ブーン!!」


男は意味もなくカップを棒でたたき割った。

意味不明で恐ろしい。私は気が動転した。


「さ、意気込みを聞いてみましょう」

「……!? ど、どうして私の家名と年齢を? 私はあなたに話していないのに! いえ、あなたはロイドじゃない……?! なぜロイド君の精神に別人が?!」

「まぁまぁ、落ち着いて。スタッフさーん、お茶」



振り返るとまた別の男がいた。

漆黒の毛皮に二刀を帯びている。



「誰がスタッフだ」

「もう一人……!?」

「ここに茶はねぇよ。まぁ落ち着け。君を取って食おうという気はない。君に居られても迷惑だからな」

「どういうこと? ロイド君は多重人格?」


自分で問いながらそれは違うとわかっていた。

彼らからはそれぞれ別々に魔力を感じた。


魂と精神から魔力が生み出される。

もしも多重人格なら魂は一つ、魔力の源も一つのはず。

でもこの二人には魔力は互いに独立していた。


「自分が入って来てるくせに、他の者にはできないとでも?」

「まさかあなたたちも『同調』を?」

「少し違う。おれたちは()()()ロイドに干渉していない。おれたちはロイドが時たま見る夢のような存在だ」

「夢?」


よく見ると二人共ロイドの面影があった。


夢は異なる世界の自分の記憶だという説がある事を思い出した。それを見越したかのようにニ刀の男は続けた。


「そうだ。おれたちはロイドにとって、夢の中に現れる幻影だ。君を安全に帰すためにはこうするしかなかったが、我々のことはロイドに話さないでくれ」


信じがたいけれど、話を解釈するならば、彼らはロイドが夢で見た記憶により、ここにいるということ。

ただの記憶というレベルの存在感ではない。

記憶が独立した自我を持つはずがない。


「では、さよならー!」

「待って。ロイド君の魔法力、これは貴方たちの力なの?」


この疑問に答えたのは3番目の男だった。



「ミカルディーテさん。あなたがこの場所と我々について追及しても、あなたにとっては何の役にも立たないのです」


彼は賢人のごとく落ち着きとても穏やかな人だった。


「有益な情報を差し上げます。その代わり、ロイドと周囲にここであったことを口外しないで下さい」

「それは情報次第です」


彼は私に情報、いや予言をした。

これから帝国、いや全世界に起こる狂気と絶望、悲劇と混沌の始まりを。


恐ろしいことにその予言には帝国でも一部の者しか知りえない詳細まで含まれていた。


「そんな……一体どうすれば……?」

「ロイドを使いなさい。『記憶の神殿』を見た、とだけ言えば、彼はあなたを無視できない」

「え?」

「おーい、それはまずいと思いまーす!」

「干渉し過ぎだ」

「いや、彼女を通して干渉するなら、おもしろい」


「私を利用しようというの!?」


「どうするかはあなた次第」

「ロイドに、あなたたちのことを話したら、予言を阻止できなくなるということ?」

「「「その通り」」」


気が付くと私は解放されていた。


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