17.魔導連盟 『星章』を持つ魔導士
王都大神殿に現れたのはローブを纏い、魔石が組み込まれた錫杖持っていた。
なぜか頭に小鳥を乗せている。
見たところ帝国人だ。
帝国人は多民族国家だからこれという特徴で表せないが眼が青い。青い瞳の中に光が灯っているかのうだ。
魔導士のようだが、魔法力はそれほど感じない。
「あらあら~、ちょうどよかったデスネ、ロイド君。紹介します」
「オズ先生」
聖騎士たちに囲まれたオズが現れた。いつもと違い白い装束で巫女っぽい。いや本職の巫女さんだったか。
彼らは彼女に対し恭しくお辞儀をして後ろに下がる。
「彼女は魔導連盟の魔導士。『獣星』と『将星』の二冠を持つ方デス」
「ほぇ~。初めまして」
おれはとりあえずあいさつをした。
『獣星』と『将星』が何なのかは知らないが立派な肩書なのだろう。
オズの紹介なので信用できそうだが、思っていたよりも若い。
まだ二十前後だろう。
人当たりの良さそうな笑顔だ。都会的なにおいはしないが品がいい香水の香りがする。
「お若いですね」
そう言うと彼女は不思議そうな顔をした。
「ロイド君が言いマスカ~? さて、立ち話もなんですから座って話しましょうネ」
「そうですね。長旅でお疲れでしょう。よろしければ我がギブソニアの屋敷にご招待しましょう」
「いいえ。まずはここでいくつか確認をさせてください。なにせローア大陸で魔導連盟が活動した前例がないので」
意外と警戒されている。
おれたちは神殿の講堂を借りて話すことにした。
彼女たちの動きを見るに、すでにこの国に入って数日経っているようだ。
海を渡ってきたにしては疲労の様子がないし、神殿の内部も把握している。
おれは『獣星』を名乗る女の対面に座らされた。
「『怪童』の論文はどれも評価が高かったです。『星章』が各論文に対して与えられることは珍しいですから。ですが、これが一人の人間の研究成果だというに本部は懐疑的です」
「だから私のメイドに接触したのですか? かわいそうに乙女心を弄ばれたんですよ彼女は」
「……いいのさ。私は化粧してもらって服を選んでもらって結局女として一歩も前に進んでいなかったのさ。浮かれて舞い上がった子供みたいでさぞ滑稽だったことだろう。同情はしてほしくないな。いっそのこと笑いものにしてくれ」
システィナはぼそぼそと独り言を言い続けている。
力なく椅子にもたれかかり虚ろな眼をしている。
相当重傷だ。
「ごめんなさい。でも身近な人間に話を聞くために仕方なかったんです。『怪童』の実績はとても当時七歳の子供が生み出したものには思えませんし、『怪童』が本当にロイド・ギブソニアであるという確認に手は抜けませんから」
つまり、目の前にいるおれが本物か疑っているということか。
ランハットと名乗る男が口を開いた。彼は多分バルト人だろう。
眼が細く、堀が浅い顔だから見分けやすい。鼻がとがっていて異人感が強い。少し訛りのある中央大陸語で話している。
「そもそも、ロイド・ギブソニアと聞いてもおれたち中央大陸の人間にはわからない。最初は冒険者に聞き込みをしていたけど、情報料がやけに高い上に大した情報も無かった。そこでこういう形をとらせてもらった」
「わざわざ情報屋で情報を買ったんですか?」
「ああ、ゼブル商会ではロイド・ギブソニアの力のバックボーンについて何も情報が無かった。あったのは本当かどうか疑わしい功績の数々だけ。唯一使えそうな情報はメイドなら接触できそうってことぐらいだ」
それはたぶんメイド違いだな。
「ロイド君のやってきたことは常人離れしてマスからネ。でもたぶん全部本当デスよ?」
「では無詠唱魔法習得の流れ、貴族としての功績、神聖術の行使、騎士としての能力、魔法生態学、魔法工学の発見や発明について全て事実だと?」
オズは頷いた。
ミカルディーテは呆れた様子で目を細め、口元だけ笑みを浮かべた。
「少なくともこの子の魔力量は魔人族の魔導士と同等かそれ以上ありマス」
「信じられません。この歳でそれなら、これからさらに増えるでしょう。いえ、もっと信じられないことは時間的矛盾のことなのですが」
「矛盾とは?」
「魔導士の修行には最低でも10年。剣士に5年。魔法工学の基礎知識を学ぶにしても2年はかかるでしょう。あなたはそれを神聖術の習得と同時に数年で、しかも高い次元でマスターしたというのですか?」
彼女が身を乗り出し、声の圧を高めた。
まったく迫力が無い尋問だ。
責めているのも好意のように思えてしまうぐらい優し気な声音をしている。
「そういう時は『あら、あなたは時間の使い方がお上手な上に人を納得させるのもうまいんですね?』と言うべきですよ?」
「う、なんて辛辣な嫌味。茶化さないで……下さい」
「帝国人はお上品ですね」
これはなんだ?
魔導連盟に加入するにはこのお嬢さんの受付が必要って?
高い魔法力があればおれが魔導士としてどのぐらいのレベルかわかるはずだ。
それができないってことは彼女の方こそ疑わしい。
「オズ先生? ちゃんと魔力視を使いました?」
おれは隣に座る彼女に耳打ちした。
「連盟員の証はこのローブデス。特殊な編み方で偽造は不可能デス」
「でも盗むことはできる」
「何をヒソヒソ話しているんですか?」
「あなたが魔導連盟の人間だという証明は?」
そう尋ねると彼女は自身たっぷりに笑った。
「あなたが本物かどうか判別ができる。だから私が来ました。この国には無い魔法を体感させてあげましょう」




