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16.この気持ちは愛

 おれには秘密の特技がある。


 見たこと、聞いたことを一瞬で記憶できること?

 それもある。

 だがもう一つ、神に授けられた力。


 神気による神聖術だ。


 魔法や剣技と違い、この力は慈愛の神エリアスが授け使い方は自然と身に着いた。

 剣神システィナはそれを慈愛の神エリアスのうっかりと言っていたが本当にそうなのか?


 神聖術は結界を生み、傷を癒す。

 それともう一つ、神と交信できる。

 自分の使命や力の意味、おれがここにいる理由。存在意義。

 それらを知る神との対話ができるなら君はどうする?

 おれは確かめる。


 だが神託を得るための『聖域』はすぐに剣神システィナにバレてしまう。

 慈愛の神エリアスは魔性の美貌で世に混乱をもたらすというが、それも怪しい。


 神格として上にいるエリアスの干渉でこの地での第二の人生を失うことを恐れてのことかもしれない。



 そこでおれは一人で大神殿に来ていた。

 剣神システィナには最近王都に現れた凄腕の剣士とのデートをセッティングしておいた。



 これで邪魔は入らない。

 さすがに王都大神殿にはたくさんの人々が訪れている。神に祈る人々の中に紛れ、おれはこっそり『聖域』を使った。

 自分の頭だけを包むぐらいの大きさだ。




 《ロイド君? 聞こえますか?》


 忘れようもない。

 その声を聴いた瞬間、おれは涙が流れた。



「ありがとうございます、エリアス様!」

 《えぇ? まだ何も言ってませんよ》


「まだ幼いのになんて敬虔な信徒だ」


 他の信徒が感心して見ている。

 ここで話しても問題はなさそうだ。


 《ようやくきちんとお話できますね。あなたの活躍はずっと》

「神よ~!!」 

 《見ていました。あの、最後まで聞いて? さすがは私の見込んだ子です。いえ、私の期待以上の活躍です》



 おれはまたもや感極まり、涙があふれた。


「やはり、ぼくには使命が?」

 《もちろんです。私がうっかり? とんでもない! ロイド君には大きな使命があり、そのために力を授けたのですよ》

「それはどんな?」

 《えっと……あのね……》



 言いよどむエリアスの声を聴いて、おれは己の浅はかさに嫌気がさした。

 今のおれがあるのは全てこの神様のおかげだ。

 それなのに疑ってかかって、困惑させている。

 聞けばなんでも答えてくれるとでも?

 相手は神であることをうっかりいつも神と一緒だから失念していた。



「私は神を信じます」



 神の壮大な計画の一部であるとわかっただけでも光栄なことと思わなければ。



 《さすがはロイド君。では、重要なお願いを聞いてもらえますか?》

「何なりと。ぼくはあなたのしもべです」

 《まずは、直接会って話しましょう》

「それは! つまり……」

 《さぁ、神気を込めて。『受肉』したら3番街のカフェでアイスを食べながらネコ通りでネコたちを眺めて――》

「そ、そんな! それじゃまるで……」



 デートだ。



 身体が震えはじめた。


 だがおれは即座に行動に移せなかった。

 うれしい気持ちはもちろんある。

 早く会いたい。


 一方で何か引き返せない道に足を踏み入れてしまう予感がした。

 まったく理性が動いていないことに、頭の中の何かがアラートを発している感じ。



 《どうしたの? ロイド君? 大丈夫?》

「はい」



 本気でおれのことを心配してくれている。

 一抹の不安はすぐに掻き消えた。



 神気を込めた。




「やめろ」

「ひゃ!」



 急に後ろから声をかけられた。

 驚いて振り返ると呆れた顔をしたお姉さんがいた。ちょっとおしゃれに本気を出した町娘のような初々しさを残しつつ、きちんとメイクで顔をつくってもらっていい感じだ。



「し、師匠……デート中では?」



 一瞬なんて残酷なことを聞いてしまったのかと後悔したが、隣には背の高い顔つきの悪い男が立っていた。



「参ったよ。楽しくカフェで話していたのに。急にご主人様が心配になったというからさぁ」

「虫の報せというやつ。当たっていた」



 《ズルいわ! シス! 自分だけ地上を満喫して!!》

「だからってロイドを騙さないで下さい」

「エリアス様……大事な話があるって……」

 《本当ですよー! 大事なことを伝えたいのー!》

「なら今言えばいいじゃないですか」

 《シスのいじわるー!!》



 おれはシスティナの登場に驚きつつも安堵している自分に気が付いていた。



 なんだこの気持ちは。



「これが推しに会いたくないファンの心理なのかもしれない」

 《えぇ~! 推しって……》

「意味わからないこと言い始めたね。でも、説得する手間が省けた。そうそう、会っても失望するだけだし、今の距離感が幻滅せず憧れ続けられる適切でほどほどな距離なんだよ」

 《ひどいわ、シス~。私もカフェでアイス食べてネコを眺めておしゃべりしたいのに!! ロイド君―!!》



 脳内に響く叫びに思わず身体が動く。

 無意識。

 そこにシスティナのチョークが極まる。


 《負けないで!! ロイド君!! シスは脇腹が弱いわ!!》

「あきゃー!! エリアス様! これ以上弟子を誘惑しないで下さい!!!」



 神殿内での格闘。

 はた目には女が子供をいじめているように見えたのだろう。

 聖騎士が引き離そうとするが、大の男たちが女性に片手で投げ飛ばされる。



 《シス! 子供相手にひどいわ!! 暴力反対―!》

「『聖域』を解かないと締め落としますですよ、坊ちゃま?」




 おれは降参のためタップした。

『聖域』を解いた。



「さぁ坊ちゃま帰りましょう。褒めて欲しいなら私が屋敷でして差し上げます」

「会いに行ける等身大のアイドル。師匠ぐらいがおれにはちょうどいいのかもしれない」

「だまらっしゃい」

「ところで」



 おれは話に入れず困惑している男を見た。



「この人は誰ですか?」

「ロイド君の知り合いじゃないのかい? 待ち合わせ場所にいたし」



 彼はおれがセッティングした男とは似ても似つかない。



「相手には変わってもらった」

「つまり、そんなに私とデートがしたかった? 取り合いか?」 


 システィナが得意顔になる。



「いや、おれのクライアントが君のことを知りたがっていてね」



 男はおれの方を見ている。

 システィナが顔を真っ赤にしている。



「私とのことは遊びだったってこと!?」

「いや、正直おしゃべりは楽しかったよ。でも、ごめん、仕事でね」

「ひどい!」


 システィナがメソメソし始めたので慰める。



「あなたは?」

「おれは冒険者だ。名前はランハット。ここには彼女の護衛で来た」



 ランハットと名乗る男が指さすと、神殿内の暗がりから杖をついた女が現れた。



「初めまして。ローアの『怪童』」


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