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15.ご褒美  ロイド工房

「ロイド卿、ちょっと来なさい」

「あ、うす」



 エリン室長に呼び出された。



「ここは?」


 ついていった先は王宮の外れにある林の中。

 人気(ひとけ)の無い場所に古い塔が建っている。


「監視塔だ。今は使われていない」

「はぁ。ここの監視って……雄大な自然と心洗われる景色。そしてこの情景を共有する男女の思い出。それが時と共に色褪せぬよう、見守るってこと?」

「だとしたら私はこの塔をそいつらの前で破壊している」

「ひどい!」


ひとでなしはさておき。

 一応王宮の敷地内だ。ここから先は学院。

 ということは、もしかして学院が建設される前は下町とここって道で繋がってたのか。


「ふん、生意気に察したか」


 生意気って……ひどぉーい!


「そう、旧西表街道との境よ。今は塀も無いからここから行けば学院と直通。当時の舗装は草で隠れているが掃除すればまだ生きてる」

「ほう?」

「この地帯は王宮だが法的には曖昧だ。そこでこの塔を学院の施設として登録した。好きに使っていいぞ」


 驚いた。

 これは何か裏があるのでは?


「えっと……ぼくちょっと忙しくてぇ」

「何を勘違いしている。これは褒美だ」

「ふぇ?」


ほんと?

いじめない?

ミ、ミカタ?


「君はよくやってくれた。懲罰会の存続は望むべくもなかったが、結果的にあのベリアムが内務大臣に納まり魔導技研の政策を支持したのは僥倖だ。加えて四大貴族をまとめ、地方貴族への根回しを済ませ、魔法機動隊の高機動パック、光通信を開発。魔導連盟とのコンタクトに成功。これぐらいの報酬は細やかかもしれないが受け取ってくれたまえ」



 褒められた。

 人に命令するか、貶すかどっちかしかできない人だと思っていた。



「しばらく魔導技研の方はいい。王女殿下のお遊びに付き合ってやれ」

「ああそういうことか」



 ここからなら通えるし、研究もできる。システィーナが学院に通えるようになるまではここで講義を開いてもらうのもありだ。


 あれ?

 なんだかここまでのおれの手柄これでチャラにする流れになってなーい?

 おいしいところってここからの魔法省立ち上げだよね。

 もう筋道できてるからやることほとんどないよね。

 魔導技研から離れたら魔法省立ち上げの功労者って誰になるんだ?

 

 流れ的に……おれじゃないな。


こういうのも贈賄っていうのかな?


「いらないのか?」

「ありがたく使わせていただきます」

「よろしい。しばらく魔導技研はいい。というか来るなよ」



 絶対狙ってるよこの人!

 まぁ、おれも真の目的はシスティーナが安心して学院に通えることだ。文句は言うまい。



 こうして魔導技研が着々と魔法省設立に向け下準備を進める中、おれは300年ほど使われていなかった廃墟の掃除をすることになった。しかも真冬に。



 ◇


「ちょっと、なんで私たちまで掃除手伝わされてんのよ」

「いやだって、ここに姫様が来るんで」



 一人じゃむりなので紅月隊のみんなに手伝ってもらうことにした。



「学生が使うんでしょ。なら学生にやらせなさいよ」


 オリヴィアが文句をいう。


「副隊長、その格好似合ってますよ」


 庶民のようなラフな恰好をしていると普通の女の子のようだ。


「誤魔化してんじゃないわよ。大体、こんなかび臭いところ使えるの?」

「風通し良くしましたし、木も伐採して日当たりも改善したので、あとは炭を蒔いて時間が経てば大丈夫ですよ」



 基礎はしっかりしていた。さすがは王宮の建物だ。

 だがいかんせん広すぎる。


 修繕箇所が多いし、調度品も含めると結構な出費だ。管理を行き届かせるにはもっと人手が必要だ。

 そこで、オリヴィアの言う通り、学生を連れてきた。


 と言っても事情を知る人は限られる。おれが冷凍冷蔵庫と日傘を一緒に造った先輩たち(身柄保護中)、それとフェリエスにフーガル、なぜかおれの正体を知っている魔法工学部の先生たち。王宮から姫の世話係の宮女たちまで出動した。



「もう、言ってくれたら手伝ったのに」



 そしてついにはシスティーナまで来てしまった。


「姫様、さすがにそれは」


 宮女たちは主人と一緒に働くなど恐れ多いとシスティーナを諭した。しかしシスティーナだ。宮女たちの口上でシスティーナの口八丁に対抗はできなかったのだ。

 アリと象だ。


 彼女の出現は車のエンジンにニトロを投入するようなものだった。


 みんな大忙しだ。

 大変だったのは先輩たちだった。



「「「えぇぇ!!」」」

「皆さん黙っていてごめんなさい」

「先輩方! 姫に悪気は無かったんです。責めないで!」

「許してください」

「「「いやいやいや!!」」」



 頭を下げるシスティーナに恐縮する先輩たち。



「どうりで、お姫様っぽいと思った」

「平民なわけないよな。なんで気が付かなかったんだろう」

「あれ、でも……安食堂では本当に働いてましたよね?」

「姫、秘密を知られてしまいました。もう先輩方の言いなりになるしかありません」

「そうね。黙っていていただくなら何でもします!」

「「「いやいやいや!!」」」

「ロイド卿、姫様も」


 マイヤに悪のりをたしなめられた。


「すいません。二人のことは気にせず仕事を」

「は、はひ」

「了解であります!」

「う、うわぁ、王宮騎士隊長さまだぁ~」


 先輩たちは右往左往して最終的にうちのメイドたちのもとに落ち着いた。


「坊っちゃま。あまり先輩方を困らせないでください」

「坊っちゃまだ! 坊っちゃま呼びだ!」

「本物だ! お坊ちゃまだ!!」


もういじってね?

 おれは楽しいが、システィーナは少し寂しそうだ。

 先輩たちは平民だ。いきなり王族相手になれなれしい態度は無理だろう。



「あぁ、先輩方、この部屋の扉なんですが」

「ひぃ、ロイド卿が話しかけてきた!」

「うぅ、貴族こわいよー!!」

「に、にげろぉ~」


 え?

 えぇ~?

このノリはどっち?


「姫、なんだか疎外感」

「だましていたんだもの。しょうがないわ」



 みんな距離感ばくってる。

 どこか他人ごとだと思っていたが、おれまで。




「ああ、フェリエス嬢。掃除の順序は上から下だ。全くこれだから七光りは」

「ええい、あなたも同じようなものでしょう!」

「おれは軍でやってきた」

「偉そうに」



 みんな仲良くやって欲しい。



「えぇ~みなさん。ちょっとよろしいですか?」


 これは良くない。

 身分差、堅苦しい。

 この中で一番作業をこなせるのは先輩たち。木工とか石削りとか金具の鋳造とか、他の人できないし。


「改装作業中、王族も貴族も平民もなしってことでいいですか?」

「はい」

「いいよ」

「いいですよ」

「いいわよ」

「異論無し」

「了解した」

「「「ええええ!!?」」」



 みんな同意してくれた。



「先輩方は姫が御自ら選ばれたのです。そしてそのご期待に応え、結果を出しています。もう少し誇って下さい。ぼくも姫も、中身は同じです」

「ロイド……坊っちゃま」


あ、もういじってるね!!


「みなさん。だましていて本当にごめんなさい。私という人間を知ってもらうには王族のままではいられなかったのです。身分は偽っていましたが、私自身の考えや行動を偽ったことはありません。そしてみなさんが私にとって学ぶべき先輩方であることも、変わりありません。どうかこれからも学ばせていただけませんか?」

「姫様……シスちゃん」


おいおいどうした?

いじれよ。

日和ってんじゃねーぞ!



 先輩たちは戦々恐々としていたが、少しづつ慣れていった。


 これまで交わらなかったグループが一つのことをする。

 これはなかなかいいものだ。

 作業を通じて徐々に皆うちとけていった。



 そうしてひと月が過ぎ、塔は一応の完成をみた。



「ロイド工房完成ですね」

「何それ!?」



 王宮から近く、学院まで直通。

 新たな学部塔には『ロイド工房』という俗称がついていた。


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