13.戦いの終結 新たな内務大臣
僻地の整備されていない獣道をタイタニック号で慎重に進んでいると、わきから男が飛び出してきた。
「ばっきゃろー死にてぇのかー!!」
お決まりの文句を言ってみる。冗談じゃないよ。雪が降って視界の悪い獣道だ。こっちも危ないんだよ?
男は手斧の男だった。轢いて御しまいなさい、タイタニック号!
「おれだ。分かるか?」
「ああ、気が早いね」
おれが剣を抜くと男は必死な形相のまま頭を下げた。
「頼む、いや、お願いします、ロイド卿! どうか首領と村を助けてくれ!!」
手斧の男、デッカードは身を震わせ頭を地面に擦り付けた。
予報通り、大雪になったようだ。
「わかりました。近道を知ってますね? 案内してください」
「いいのか? おれはお前を二度も殺そうと」
「究極の業は自分を殺しに来た者と友達になること、らしいです。ぼくと友達になりますか、デッカード?」
タイタニック号は普通の馬だ。
だが他の馬とは違う訓練を一つ積んでいる。
『風圧』による加速。
『送風』ならただの追い風だが『風圧』ともなると速力は三割増しなる。時速換算で約60キロメートルから80キロメートル。
自動車並みの速度で長距離走行が可能だ。
さらに細やかな方向転換により加速できない細い山道でも……
「あがが、おおおい、むむむ無茶するな!」
「だだだ、大丈夫ぅぅー! 行け、タイタニッククククゴゴゴ、あ痛っ! 舌がぁぁぁ!!」
ええい、ままよ!
加速加速加速!!
土魔法により、地面を即席舗装!!
さらに向かい風による空気抵抗を極限まで低減!!
障害物は魔法で吹き飛ばす!!
すぐに吹雪いてきた。
山を突っ切り、村の裏に出た。
視界ゼロだ。
真っ白な雪に覆われている。
村は完全に白い雪に覆われ、消えていた。
「それで?」
「首領と奥様は女、子供と屋敷の地下だ! だが雪崩で閉じ込められてる」
『記憶の神殿』のマップを頼りに屋敷まで到達する。
「ここまでの大雪は初めてだ!! 村の方にも雪に飲まれた奴がいるかもしれない!! あっという間だったんだ!! くそぉ!!」
雪の下に埋まっている人間の位置はそう簡単にわからない。この吹雪だ。雪崩もまた起きるかもしれない。モタモタしていたら二次被害が起きる。捜索はできない。
――と、普通はなるだろうが、おれには当てはまらない。
「まずは……」
「……む、雪が止んだ?」
同時に馬鹿でかい氷が造られていく。
ベリアムの屋敷十個分はある。
水魔法で大気中の空気から水蒸気を奪い乾燥させる、熱魔法で地表付近の気温を上げた。風魔法で温かく乾いた空気を上昇させた。
乾燥の反動で大量の水が、熱の発生で冷気が生まれ氷となった。
「よーし」
「あ、あり得ん。天気を操ったのか!?」
雪が降るのは冷たい空気と水蒸気、大気の温度湿度が問題だ。それを変えれば雪が降る気象条件は崩れる。
ただし、雨にすると凍結や全層雪崩の危険が増す。
だから雪を止め、大気の温度は保った。
視界が開けてきた。
「まず助けを呼んでおきましょう。魔獣の討伐まで手が回らないかもしれません」
「呼ぶってどうやって?」
おれは懐から魔道具を取り出した。
「それは、前に使っていた……」
『発光』を組み込んだ銃型の杖。
これを上空で点滅させれば離れた相手と交信できる。
反応があった。
チームがこちらに向かうとのことだ。
「ここからならすぐに来ますね」
おれはタイタニック号に乗り各地を回る。
「要救助者発見!!」
「なぁ!? どうやって!?」
雪を氷属性の魔力で動かし、生き埋めになっていた村人たちを救出していく。
「くぅ~ん」
「おお、熊」
「ヒィ~ン」
「馬!」
巻き込まれた農耕馬や山に住む熊なんかもレスキュー。
「クゥ~ン」
「君もか」
村で飼われていた荒居熊『大熊主』だった。
「よし付いてこいアライちゃん」
「変な名前を付けるな! 大熊主は神聖な守り神だ!」
屋敷の上の雪に魔力を注ぎ氷属性で動かす。
屋敷は倒壊しているが地下は無事のようだ。
「アライちゃん、ここを掘って」
大熊主は器用に倒壊した木材や石材をどかしていく。
「早かったな……助かったよ。むっ……まさか」
「首領!! お怪我は!?」
「みんな無事だ。だが、ここに逃げ込めたのはわずかだ。他の者は……」
「とりあえず埋まっている人は助けました。あと馬とか」
ベリアムはおれの顔を認識すると驚きを隠せない様子だった。
「ま、魔獣は!?」
「それが……」
レスキュー中に駆け付け魔法機動隊が魔獣をせん滅した。
「ベリアム男爵ですね? 災難でしたな。我々は魔導技研傘下、『魔法機動隊』であります」
「いやぁ~ご苦労様でした! 早かったね」
「ん? なんだ小僧? あっち行ってろ」
チームはおれのことを知らないんだった。
なんかショック。
あっち行ってるね。
「そいつが拗ねる前に敬意を払え。お前たちを推薦し装備一式を造ったのはそいつだ」
馬に乗って女が近付いてきた。
「隊長……じゃあ、この子が『怪童』ですか?」
「そうだ」
隊員たちの見る目が変わった。
「本当に子どもなんだな」
「信じられないわー。少なくとも風魔法、土魔法、光魔法を極めてないと、刻印化できないだろうし」
「すげぇな」
驚いているのは隊員だけではなかった。
ベリアムと手斧の男が隊長と呼ばれた女を見て固まっている。
「どうした、男爵? 私はそんなに魅力的か?」
「なるほど。裏で糸を引いている者がいると思っていたが、こういうことか」
殺したはずのエリン室長が目の前に現れたのだ。
「『提案』はぼくの案ですけどね」
「これは私の負けだな……君の忠告のおかげで皆を地下に避難させることができた。村の者たちも救ってもらった。いや、ここは素直に感謝しよう」
後日。
彼はおれへの義理を通して内務大臣の打診を受けた。
それにあたり、爵位は男爵から下級伯爵(領地のない伯爵相当の権限者)へとなり、王宮で暮らすことになった。
ベリアムはグレイ一族の末裔で、グレイ一族は王国の建国から存続する由緒正しき血筋であり、彼の周辺領地へ配慮と信頼は内務大臣の職にふさわしい。
というのが対外的な言い訳だ。
この電撃就任劇からは怒涛のように話が進んだ。
「お待たせしましたデスネ! ロイド君、君に星、七つ!! デスネ!!」
オズが魔導連盟から『星章』が授与されたことを報せた。




