9.懲罰会との対決
肌寒く、紅葉した木々からは葉が落ちる季節。
夜空を見上げれば澄んだ空気が星々の彩を際立たせる。
月が照らす夜の街道を、王都から南下する馬車。
そこに迫るのは黒い集団。
慣れた様子で馬車の前に立ちふさがり、護衛の者をなぎ倒し、従者を引きずり下ろした。
彼らを意に介さず、馬車の主とその妻、息子が同じく引きずり出された。
「こんなことをしてただでは済まないぞ! 私が誰だか知っているのか!?」
「グスタ・レビーだろ? おれたちが誰かはわかってるはずだ」
「……そんな、勘弁してくれ。私はまだやれる! 私にはまだ力が‥‥‥」
「首領から伝言だ。『巻き込まれる気の毒な君の家族と従者と護衛のためにせめて美しい星空の下で死んでくれ。彼らに心より哀悼の意をささげる』だそうだ」
グスタ・レビーの首に鎌の刃が突き付けられた。
「哀れだな。権力を振りかざし好き勝手に生きた報いを受けろ」
だが刃は振り下ろされなかった。
「どうした?」
「か、身体が‥‥‥魔法だ」
硬直した男の隣で次々と刺客たちが倒れこむ。
「ドラゴの『氷結』か」
勘がいいのか、三人取り逃がした。
まるで足の多い蟲だな。見失った。
暗闇に声が響く。
「ヒースクリフ、いや、ロイド卿だろう」
馬車へ素早く駆け寄り、グスタ・レビーを救出した。元内務大臣である。
学院での一件でトカゲの尻尾切りにあったようだ。
それを待っていた。
「お、おお! ロイド卿!!」
「死にたくなったら黙っていてください」
敵はベリアムの配下だ。
油断できない。
「この人の身柄はこちらで預かります。戦っても無駄ですよ。わかっているでしょう?」
「お互い宮使いの身だ。そいつに生きていられると困る。譲ってくれないか? そいつには魔導技研も手を焼いていただろう」
「た、頼む助けてくれ!! 礼ならいくらでもする!!」
大気に魔力阻害の粒子が蒔かれた。
空間に充満する前に風で押し流そうとしたときグスタ・レビーに抱き着かれた。
「もう~邪魔~!」
「実は前回お前は殺すなと言われていたんだ。だがいい加減ボスも目障りなお前には消えてもらいたいようだ。『怪童』、お前の技術は商売の邪魔になる」
暗闇から刺客たちが接近する。
まずグスタ・レビーと家族、従者を馬車に強引に押し込んだ。
喚き散らすが無視。
すでに粒子は充満している。
魔法は使えない。
手斧を持つ男がリーダーだ。
だが鉄爪と鉈の二人も侮れない。この二人も前にいたな。
『鬼門法』による身体能力の上昇。
手斧の男の一撃が地面を割った。
ぐらつく足場。
その間に後方から二人が迫る。
『虚門法』『虚脱』
全身の脱力で一瞬だけ筋力に頼らない予備動作無しの動き出しを可能にする。
鉄爪と鉈を躱し、攻撃に転じるために抜剣。
ここで手斧の男がタックルをかましてきた。
「うおっ!」
はじけ飛び宙を舞うおれの身体。まるで交通事故だ。
しかしただで攻撃は受けない。
「ぐっ……?」
手斧の男が背中の出血を確認する。
「三体一でこれか。今のは本気だったんだが。技が豊富だな」
「動きは前に見ましたので。ここの差ですよ」
おれは頭を指さす。
「下手な演技だ。いくら技術があろうと今の衝撃を全部吸収できるはずがない」
バレたか。
おれはこっそり神聖術の『治癒』を使っているだけなのだ。
子供のおれには受けきれない攻撃がある。
「からくりは分からんが無限には耐えられまい」
「そちらもダメージはあると思いますが」
「なら我慢比べだ。安心しろ。最後まで付き合うさ」
手斧の男、やはりこの男から切り崩そう。
身体がでかい分こいつが一番遅い。距離を詰めて斧を振らせれば隙だらけだ。
『記憶の神殿』には剣神システィナの戦闘データが豊富にある。それはおれの肉体を瞬時に動かす直感も生み出す。
一言でいえば、冴える。
『虚門法・虚心』
直感に従い、相手の動きを先読みする。
「――っお?」
手斧の男は不利な体勢だったのに手斧一本でさばききった。
都合七度、連撃を躱し切った。よく見えている。この暗さで?
しかもでくの坊の割に反応が早い。
こいつ、『気門法』と『鬼門法』を上手く使い分けられるのか。
手斧を躱し、鉄爪を捌き、鉈を避けた。
敵もこちらの攻撃を上手く避ける。前回戦った分学習したか。
闇に乗じて戦う術にも長けてる。
『氷結』で動きを封じていた4人が動き始めた。
「どうやら勝負ありのようだ」
「そうですね」
剣を投げた。
それが鉈の男の足に刺さった。
すかさず、腕に組み付いて関節をひねり上げる。
「こいつ!!」
離れ際、顎に二発蹴りを打ち込んだ。
鉈を奪い取った。
タックルをかましてくる手斧の男。
「あ痛っ!」
当たってない。その前に転んだ。
「んな! ここで!!?」
手斧の男がタイミングを外し、つんのめった。
おれの致命的隙に躊躇した。
本当に転んだだけなのに。チャンスだ。
「とりゃ!!」
鉈をまた投げた。
鉄爪の男への牽制だ。
手斧の男が掴みかかってくる。
ぎりぎりで躱す。
膝に蹴り、膝をつかせ、振り向きざま顎。とどめに肩と腕を押える。
「ぐぉ、馬鹿な……力でおれが‥‥‥」
「力じゃありませんよ。『虚門法』・『虚空』です。ここからですけどね」
「なに!?」
そのまま手斧の男の巨体が宙に舞い、ぐるりと回転して地面に叩きつけられた。
「なぜ魔導士が捕縛術を!!」
手斧をひったくる。
鉄爪の男の突きをスウェーバックで躱し、脚を腕に絡めた。
腕関節を破壊する。
「ぐぅぅ!! 長耳族の動きまで!?」
「ふぅ、こんなもんかな」
「このガキ……力を隠してやがったのか」
「戦闘スタイルが変わった。騎士の戦い方とは思えん」
「ぐぅ、なぜこの暗闇でおれたちの攻撃を躱せる!?」
さぞ困惑しているだろう。
種明かしはしてあげない。
パラノーツ軍隊剣術。
紅月隊騎士たちの剣術。
そしてシスティナの剣術と『虚門法』
他にもエルフが使う葉の舞い。ドワーフのドラルグ。獣人の旋脚。バルトの瞬回、痛打。聖騎士の拘束術。
とにかくありとあらゆる技を記憶している。
ただそれだけだ。
暗闇も関係ない。
おれの目には『記憶の神殿』に記録された土地と環境の情報が見えている。
「そろそろ魔法も使えますよ。どうします? 続けますか?」
形勢を逆転された割に刺客たちは落ち着いていた。
「……ロイド卿。おれたちはお前にやられた傷がまだ癒えていない。そのおれたちがここにいる理由がわかるか?」
「人手不足なんですか?」
「いいや。人手は足りてる」
暗闇に複数の気配が発生した。
伏兵。
ということは……
「お前ならここでグスタ・レビーを襲撃するおれたちの動きを読むだろうとわかっていた。お前はおびき出されたんだ」
「回りくどいことを」
「リベンジさせてもらう気だったが、どうやらおれたちではお前には敵わない。悪いが数で圧倒させてもらおう。おれたちは騎士じゃないんでね」
暗闇から矢が飛んできた。
「勇敢なる戦士たちよ。このロイド・バリリス・ギブソニアと正々堂々真の男同士誇りと名誉を賭けて刃を交えようではないか! さぁ、一列に並べ! 順番に勝負だ勝負ぅー!!」
矢が飛んできた。
ふーん!
「意気地なしどもめ!! あぁ……」
あわよくばおれを正面から倒したいという欲があったのなら、少しはプライドがあるかと思ったが、しょせんはならず者か。
「あわわぁ……」
「チッ、何してる。さっさと当てろ」
おれもバカじゃない。前回と同じ失敗はしない。
おれは上着の内ポケットから小さい銃の形をした魔道具を取り出し、その銃口を空に向けた。
おれもグスタの身柄を一人で押さえる気はない。




