8.『恐怖と利益』が人を動かす
公聴会の後、財務長官は難癖をつけて魔導技研の予算を差し止めた。
だが彼は不思議に思ったことだろう。
魔導技研の活動は全く滞ることがなかったからだ。
王国随一の財力を誇るナイブズ家が出資したことで財務長官の妨害にもかかわらずおれたちは順調に計画を進めた。
これまではっきりとしなかった魔獣の被害と魔導士の数、能力との関連性を調査し、魔導士の待遇、その出自などのデータを収集していった。
だが財務長官はあきらめなかったようだ。
予算があるならそれを削ろうと、魔導技研の今後の計画をどこからか聞きつけ物資の値段を吊り上げるために市場価格に介入した。
魔道具を造るための金属、特に聖銅について値上がりが起きた。それも財務長官の予期せぬほどに。
値段が上がった後も魔導技研が購入し続けたためだ。
財務長官はさらに買い占めをして値段を上げにかかった。
だが、聖銅がそんなに必要だろうか。
高いなら安い銅にしよう。
たったそれだけで魔導技研は聖銅の購入から手を引いた。
直後市場では聖銅の価値が大暴落した。
財務長官は大きな借金をした上に、巻き込んだ商人たちや貴族まで破滅させた。
何より、聖銅の鉱山経営を誰がしていたのか。
『懲罰会』だ。
経営に大打撃を与えた財務長官は当然命を狙われることになり、助けを求めた。
おれに。
「情報をやる。その代わり、絶対に私を護れ」
「なんでぼくが」
「お前のせいだ!! 聖銅の価格をわざと吊り上げただろう!」
「それはあなただ」
「見捨てるというのか!! この私を!!」
「助けてあげないことも無い。ただし、まずは言うべきことがあるんじゃないですか?」
「ああ、悪かった! 私が間違っていた! 私の負けだ、許してくれ!!」
財務長官はこれまでの悪事と『懲罰会』に関する情報をペラペラと話した。
内通者や手先の犯罪者、その拠点や資金源の商会まで全て。
「まさか、聖銅があそこまで暴落するとは……」
「おかげで安く手に入りました」
投げ売り大セールだった。
「そんなに大量の聖銅を魔導技研は何に使うというのだ?」
「……さぁ? どうしましょう」
聖銅は鋼鉄より強靭で熱に強く、魔力を遮断できる。
「は? け、計画に必要だったのではないのか!? まさか、最初から……」
「偶然ですよ。でも、勉強になりました。確かにあなたの言った通りだ」
「え?」
「『恐怖と利益』が人を動かす」
財務長官だった男はただ茫然としていた。
一生そうしていろ。
◇
ひと騒動が収治まったので安食堂にやってきた。
自分へのご褒美である。
「あわわ……」
入店すると先輩が固まっていた。
一緒にアイスを自作して売った仲だ。
しかしおれは前回の反省を踏まえて行動することにした。
近づくと先輩が後ずさりした。
前は頭をポンポンと触ってたのに。
「先輩、落ち着いて。ほら、ぼくはただのロイドですよ~」
「あわわ……」
先輩はまるで猛獣に触れるかのように恐る恐るおれの頭に手を置いた。
「ね、怖くない」
「お、おお~」
おれは手を払いのけた。
「ランチと水お願いします」
「が、がってんだー!」
常連さんたちがそのやり取りを見て奇妙な視線を向ける。
「ロ、ロイド?」
「あ、どうも」
いつもと同じ対応に常連さんたちが何か安堵している様子だ。
しかし入店した次の人物を見てその表情は真っ青になった。
「同じものを頼むとしよう」
「これは、ジョルジオ様。西の大都市にもとうとうこの店の評判が?」
「貴公に会いに来た」
ジョルジオ・ネス・ブルボン。
ネス大湖の周囲にある大都市を統べる西の大貴族。
どうやら財務長官から得た情報で大都市にはびこる違法な経営をしていた商会を潰せたらしい。
そのお礼を言われた。
「ローレルは貴公を弟のように思っているようだ」
「それは光栄です。剣を最初に教わったのは彼女とスパロウなので」
「良くない。そのスパロウと恋仲らしい。私は娘を貴公の伴侶にと思っていたのだが」
「お似合いの二人です。私は応援してます」
「私の長男の娘が今12歳なのだ」
「はぁ……」
「貴公、まずは従士にして傍に置いてみぬか? 魔法も剣も使えるのだ」
「そうですか。それは私の一存では」
「入隊試験は受けさせる」
話が見えない。
そんな話をするためにわざわざここに来るはずがない。
「大きく動いているようだな。相手がどれだけ厄介か、わかっているであろう」
「ええ」
「貴公に大義があるのは察する。しかし、物事の真理と結果が必ずしも一致するとは限らん」
「深いお言葉ですね」
「単純なことだ。人は間違える。貴公が正しくとも、反対する者もいるだろう。それは私とて同じこと」
「私にどうしろと?」
「簡単なこと。何をしているのか私に明かし給え」
ほとんど知っているのだろう。
それをあえておれの口から聞こうとするのは立場をはっきりさせるためだ。
どっちしろジョルジオ都市伯の協力は必要だ。
貴族代表の四人のうちの一人だからな。
おれは計画を話した。
今は『懲罰会』の手足をもぐ。
手下の犯罪者たちを摘発するために裏で動く人材が必要だ。
彼は協力を申し出てくれた。
「ブルボン家傘下の優秀な都市警を貸そう。捜査能力を持つ剣客たちだ」
「助かります。ではこれを」
光銃を渡した。
「情報があったらそれで報せて下さい」
「うむ」
もう一人の四大貴族がバックに着いた。




