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6.ランチを食べながら財源確保

 

 内務大臣が御前会議に現れず姿をくらました。

 これまで内務大臣に肩入れしていた者たちも見限り始めた。


 形勢は一気に傾いた。


 内務大臣がやったことは王権への反乱に等しい。王立魔導学院への殴り込みなんだから当たり前だ。



 取返しの付かない失態を犯した内務大臣はおれの暗殺を手ごまに命じた。

 王国で手配中の重罪犯たちだ。


 なぜかって?

 おれもよくわからない。たぶん、逆恨みなんじゃないかな?



 しかし内務大臣はまたもや致命的なミスを犯した。

 それも3つ!!!



 まず1つ目。

 おれを殺すために有名な犯罪者を選んだことだ。

 手配犯、つまり手配書が公開されている。

 おれは街でふと遭遇した犯罪者に気が付けるようにするため、この手の輩の手配書は逐一『記憶の神殿』に記録している。


 結果、彼らはおれにもったいぶった自己紹介や趣向を凝らした脅し文句を言う前に失神して、見回りしていた新人憲兵の手柄になった。


 2つ目は凄腕の暗殺者や殺し屋を選んだことだ。

 凄腕の暗殺者は隙を突こうと潜入したり、別人になりきろうとする。一般人に紛れようとする。オチが読めたと思う。

 おれは王宮や学院、王都で働くほぼ全ての官僚、兵士、貴族、出入りの商人から下働きの者まで把握している。なぜって? 『記憶の神殿』の名簿に記録を付けているからだ。この説明毎回必要か?

 ある日知らない御者が馬車で待ち構えていたらUターンして衛兵に報告。

 それが庭師だったり、厨房の見習い料理人だったりと様々だったが、不審者を捕まえたら有名な暗殺者や殺し屋だったということが立て続けに起きた。



 3つ目。これが一番馬鹿―だなと思う。

 おれが中々殺せないので、人質を取ってしまおうとおれの身近で大切な人物を狙ったことだ。

 標的はヴィオラだった。


 彼女はメイド。傍におれが居ないときに狙えばいい。おれが居ないとき彼女は他のメイドといる。

 無防備。そう安直に考えたのだろう。

 そっちの方が難しいのに。

 なんせ、ヴィオラが一緒にいるメイドといえば剣神システィナだ。


 人さらいやらチンピラやら元傭兵やら山賊野盗その他犯罪者たちが懸賞金目当てにヴィオラを狙ったが、彼女は毎日いい1日を過ごして、自分が狙われたことすら知らない。やけに通りで屋根や壁が崩れる場に遭遇するとか言っていたぐらいだ。

 やられた無法者たちですら、誰にどうやって斬られたのか分からなかっただろう。

 ヴィオラが狙われていると勘付いたお節介な冒険者が一度だけその場に居合わせて目撃したらしいが、剣を抜くところも見えなかったそうだ。



 それでだ。

 これがこの話のオチ。

 犯罪者の手ごまは『懲罰会』の力で借りていた。

 いや独断で勝手に使ったということだろう。

 その上、よく分からない要領を得ない失敗を繰り返した。


 その結果、内務大臣は『懲罰会』から命を狙われる羽目になったようで、屋敷も土地も捨てて逃亡した。



 いやほんと、バカだなー。



 ◇


 親父さんの安食堂におれは来ていた。

 学院での騒動があってなぜかと思われるだろうが、仕方ない。

 親父さんの料理が無性に食べたくなる時があるのだ。


 束の間、周辺事情も落ち着いたし、これからもっと忙しくなる。

 そこでエネルギーを充填にきた。



「え?……」



 先輩が絶句していた。

 アルバイトをしている先輩が比較的多い店なので遭遇する確率は高い。



「あ、先輩ご苦労様です。お水とランチで~」

「えぇ~!」



 困惑する先輩。

 魔法工学部の先輩で対抗戦のときはずっと屋台を切り盛りしてきた仲だ。おれを見ると弟のように気さくに接してくれていたが、今は怖いものでも見るように震えている。


「よぉ、ロイド! しばらく見なかったな!!」

「えぇ、ちょっと忙しくて」

「あれ、シスちゃんは?」

「彼女はちょっと王宮に引きこもってます」

「そりゃ、大層なこったな!!」


 常連さんたちが気さくに声をかける。


 厨房でガラスが割れる音がした。

 どうした?

 大丈夫か?



 すぐに先輩が水を持ってきた。

 しかし、ガタガタに震えているのは誰の眼にも明らか。未来が予測できなくても次に起きることは予想できた。


「きゃああ!」



 先輩が水の入ったグラスをひっくり返した。

 キャッチして、水は魔法で元に戻す。


「おいおい、今の見たか?」

「ロイド……お前、すごいな」

「今のって魔法か?」

「ご、ごめんなさい! ロイド君、あ、いやロイド様!!」

「いえ、別に怒ってませんから」


 おれが貴族だから緊張させてしまったようだ。


 気まずい沈黙。

 そこに親父さんがランチをもってやってきた。



「気にすんな。貴族かどうかなど大した問題じゃねぇ。お前はこいつの中身を知ってんだろ」

「親父さん、知ってたの?」



 親父さんは何となく最初から分かっていたようだ。



「おれらも知ってるぜ。ロイドは立派な騎士様だ!」

「将来大物になるぞ~!」

「成り上がってもおれたちと友達でいてくれよな!!」



 何も知らない常連たちはごっこ遊びをしていると思っているようだ。



 具だくさんのスパイシーなスープ。これはカレーに近い味がしておれの一押しである。

 これにパンを浸して食べると最高なのだ。



「いただきます!」

「だがロイド、あんまりここを集会場みたいに使うな。他の客に迷惑になる」

「集会場?」

「ありゃ、お前の客だろ?」



 安食堂に明らかにその辺の市民とは違う風格を漂わせた女が入ってきた。

 白い毛皮のコートが良く似合う30代後半ぐらいの背の高い女。



「お、おいあれって貴族だよな?」

「ありゃ本物だ。なんでこんな店に……」

「あの紋章……ナイブズ家だ」



 女は常連さんたちが店を出ようとするのを止めた。



「気にせず食べな。構いやしないよ」


 どっしりと迫力がある。それでいてどこか艶めかしい声。粗野な言葉遣いなのに品格がある。荒くれ者の船乗りたちを牛耳ってきた力が籠っている。その力に魔法をかけられて席を立ちかけた男たちが固まった。


「き、気にせずってよ……」

「おれたちここにいていいのかよ」

「失礼があったら」

「お前らは客だ。客は平等だ」



 親父さんがそう言うと彼女はおれの座っていた正面に座った。



「あ、そこは……」



 常連たちが慌てている。



「探したよ、ロイド」

「これは、アプル伯爵。ごきげんよう」

「あたしにも同じものを頼むよ」


 アプル・ド=ミルズ・ナイブズ。

 東の港湾都市リヴァンプールを含めた大運河とその周辺地を治める伯爵。四大貴族の一角だ。

 見た目は若いが50歳近い。



「アプル伯爵もこの店の評判を聞いて?」

「フェリエスにここかもと聞いてね。あんたに会いに来たのさ。お礼が言いたくてね」

「お礼?」



 捕まえた犯罪者の中にリヴァンプールで大罪を働いた者がいたのだそうだ。

 それと、おれが怪童だと知って、冷凍冷蔵庫や日傘でフェリエスを助けたことに対して感謝された。



「まさか魔法だけでなく、あんな便利なものを生み出しちまうとはね。恐れ入ったよ」

「いえ、ぼくは考えただけですから」

「お礼にどーんとフェリエスを嫁にあげたいところだよ」

「え? いえ、そんな……」

「ただあたしはあの子の気持ちを無視できないし、それだとこっちに得過ぎて礼にならない」

「はぁ……」



 アプルは借りを作ったままでは気持ちが悪いというのでシンプルにお金をもらうことにした。

 これからの魔法省のために融資をして欲しい。



「いいよ。わかった。その代わり、あんた何をしてるか話しな」

「はい」


 おれも声の魔法にかかった。

 いやどちらにせよ四大貴族の協力を得ることは計画のうちだ。

 フェーズ2だ。フェーズ3『怪童』の情報で世論を優位に動かす、は先にやってしまったから今がフェーズ3。


「『懲罰会』を掌握します。魔法技術を先に進めるために障害となるので」

「……排除じゃなく、掌握か。あんたは良くわかっているね」



 永い沈黙だ。

 その間おれは黙々とご飯を食べた。

 アプルもまた出されたスープに手を付けた。お気に召したようだ。


 常連さんたちはポカンとしてこちらを見ている。



「ナイブズ家傘下の流通網を使いな」

「それは助かります。ついでにこれという人材がいましたらお貸し願いますか?」

「ああ、そうだね。多少お行儀が悪いがあんたなら大丈夫だろう」



 普通はできるのか?

 どうやるのか?

 とかいろいろ聞くのだろうが、さすがは格が違う。



「あ、そうだった。これをどうぞ」

「なんだい。贈り物であたしを口説こうって?」

「あはは。そんなところです」



 おれが渡したのは小さいリボルバー銃の形をした杖だ。

 シリンダーの代わりにダイヤルが付いている。


「随分凝った造りだけど、武器なら足りてるよ」

「それは光るだけです」

「光るだけ? ならこの機械は」

「距離と発光の色を変えられます」



 船を駆使するナイブズ家、すぐ理解したらしい。



「なるほどね。『陸の灯台』ってわけかい。いや、本当に大した奴だよ。何が肝心かよく分かっている」

「暗号を言いますので覚えてください」



 その場で伝えたら『覚えられるか!!』と怒られた。



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