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5.明るみになる『怪童』の正体

荒された工房。散乱した魔道具。

その上に転がる役人たち。



それらを見下ろす学生が一人。

シス。



「手を出したな。よーし、お前たちは犯罪者だ。国家反逆罪、共謀罪、内乱罪、傷害罪に、不敬罪だ!! 抵抗するならこの場で処刑する!!」



おれは役人の言葉など聞いていなかった。

彼女に申し訳ない気持ちで、どう声をかけていいかわからなかったからだ。




「ロイド君、逃げて!!」

「シスちゃん、早く!!」



 先輩たちが駆け寄りおれたちと役人の間に割って入る。囲むようにして壁になった。

 手を引かれるシスティーナはその場を動かなかった。


 おれも同じ気持ちだ。


「ロイド、もういいのです。この者たちは一線を越えました。あなたの言う理想のために、今目の前にいる先輩方を見捨てることなどできません」

「はい」


システィーナが魔道具の変装を解いた。

灰色の髪とその瞳が高潔な金の輝きを帯びた。



「え? シスちゃん?」

「……だ、だれ?」



先輩たちはその神々しい『王国の至宝』を目の当たりにして困惑していた。



「そこにいるのがロイドらしいな。一線を越えたのは貴様らだ。覚悟しろ」

「覚悟するのはあなた方です。ここは王宮管轄の魔導学院。そこに押し入り破壊と暴力の罪を犯したこと、この場で償いなさい」



システィーナが先輩たちの前に躍り出た。



「償うだと? 貴様、何様の―――え?」

「ロイド、この私が命じます。王立魔導学院に罪をでっち上げ押し入ったこの乱暴狼藉者たちを排除なさい。罪は陰謀罪です」

「かしこまりました、姫様」



役人付きの槍兵装部隊が前に出たおれにその矛先を向けた。



「ロイド……まさか!! お、お前たち、待て!!」



役人が気が付き慌てふためくがもう遅い。


一撃一撃に殺気を込めたおれの『風圧』がその場にいた20名近い役人集団を強制的に工房の外へと吹っ飛ばした。



「ま、魔法……」

「今、魔道具使ってなかったよね……」

「うそ……これじゃまるで……あの……」



おれは工房の外に出た。

もちろん誰一人殺しては無い。


この落とし前をつける者がほかにいる。


「こ、これはとんだ茶番ですな! 『怪童』がロイド卿であったとは……あなたは御前会議を欺いてきたことになる!! この罪をどう贖うおつもりか!!」

「我が父プラウドは知っています。ロイド卿に罪はありません。それより、この場に踏み込んだ根拠であるロイドの誣告の罪とやらこそ、捏造。王宮、ひいては王室への反逆。この責任をどう取るというの?」

「お、恐れながら姫殿下!! 私共は正式な職務にのっとり、コーラ・ゴーマンの証言の元に捜査を」

「一度神殿の法院で罪を認めた男の供述を誰が聞いいたというんですか?」



 学生たちが集まり見守る中、役人は苦し紛れの言い訳を繰り返した。



『正当な職務』、『調査のための権限がある』とか。



「ここは穏便に、話をしましょう。内務省にお越し下されば誤解も解けるというもの!!」

「誤解? おもしろい。ならここで解きましょう。『聖域』」

「う、うわぁ!!!」



役人たちが逃げようとした。

だが聖なるサークルに捕らわれた罪人たちは苦しみだした。



「誤解を解くのは真実のみ」

「やめろぉぉ!!」

「コーラの訴えは?」

「――訴えはありませんでした!!」


 役人の一人が自白した。



「『怪童』の技術を手に入れるための口実です!!」

「コーラに訴えを起こすように指示を出しました!!」


次々に自白していく役員たち。



そして最後には核心に触れた。

多くの学生と教師、王女の目の前で。



「全て、グスタ内務大臣の指示だ!!」



『聖域』が解かれ、うなだれる役人たち。

彼らは駆け付けた教師陣に取り押さえられた。




「ロイド君が……ロイド・ギブソニアってこと?」

「じゃあ、シスちゃんは……システィーナ王女殿下……」



学生たちが膝をついた。

内務大臣の不正の証拠は掴んだ。

奴は自ら魔法職への不当な捜査を行い、権力による魔法技術と人材の搾取を体現して見せた。


だがその代わりに、犠牲があった。



「姫様」

「胸を張りましょう」



彼女は仲の良かった先輩たちが彼女の前に跪き震える様子を見て、眼に涙を浮かべた。



「わ、私たちは……この学院を護ったのですから」



おれはそっと彼女の手を引いた。



「シスちゃん!!」


振り返った。

先輩が一人、また一人と顔を上げ立ち上がっていた。



「まだそう呼んでくださるの? 騙していたのに」

「騙してないよ!」

「シスちゃんはお姫様で、ロイド君は騎士。ずっとそう言ってじゃない」



システィーナの眼から涙がこぼれた。



「平民も王族も貴族も関係なく、学ぶ機会を得られる。その一歩を姫は御自らすでに踏み出しておられます」



おれが促すと彼女は先輩の胸に飛び込んだ。



例え身分が違っても、これまで彼女がみんなと過ごした日々は消えない。共に学び、悩み、時には争い、助け合い、働いた。

詠唱学部の貴族から魔法工学部を護ったのも彼女だ。



エリンの計画では『怪童』の情報は魔法省設立のために温存すべき情報だった。

だが後悔はしていない。



「やっべー、おれシスちゃんに可愛いねとかいいまくっちゃったよ!!」

「あぁ! そういえばおれ……呼ぶときに肩触ったことあるかもぉ……」

「ぼくなんて将来お嫁さんに来ない? って誘っちゃったぞぉぉ!!」



ほう?

ここにもいたか。

罪を認める者たちが。



「ひぃぃ、ロイド君!! 肩触っただけだよ!?」

「褒めただけだから!! 許して、ぼくらの仲じゃないか!! 」

「冗談だから! 冗談!!」

「姫様はまだ10歳ですよ? 王女であるとかないとか関係なく、先輩方が危険だと判断せざるを得ませんねぇ」



だが平民を装っていた時の罪は問えない。

そういう誓約だ。



「これからもただのシスとして仲良くしてください」

「ほぉーら!! シスちゃんがああ言ってるよ!!」

「そういうことだから!! ねぇ!?」

「仲良くやろうよ、ロイド君!!」



なぜおれの正体を知ってもおれに対しては普通なんだ?


まぁいいか。


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