4.計画の第一段階 『魔導連盟』との接触
おれとエリン室長の牽制が功を奏したのか、調査への妨害が大人しくなった。
エリン室長はそのまま死を装い、別の仕事をすることに。
人材集めだ。
あの手練れが相手では戦力が足りない。
それにもっと情報収集を担う人手が必要だ。
そこでリストをつくり彼女に渡した。
おれがこの約8年間で見たあらゆる人々の中で信頼と実力を兼ねる者のリスト。
彼女はそれを元にスカウトに向かった。
その間、おれにも重要な仕事がある。
計画の一歩。
『魔導連盟』との接触だ。
この国際機関は王国に支部がない。
しかし、おれたちは頭を振り絞って一つの仮説を立てた。
調査員とかいるんじゃね?
王国の歴史は古い。
魔導士に興味が無くても、遺跡や迷宮について研究する者や、情報収集をして「王国の魔導技術は遅れている」と結論づけている連中がどこかにいるはず。
その仮定の元、おれたちはそれらしき者に当たってみた。
そして、たまたまおれがそのあたりを引いたらしい。
「魔導連盟に伝手ならございますデス」
オズ先生だ。
彼女は実は神殿の巫女で、この国には神器を探しに来たらしい。三百年前だそうだ。今何歳なんだ?
そう言われてみればその佇まいやゆったりした装束は神秘的で巫女っぽい。全身黒い喪服みたいだけど。
おれは彼女の研究室でお茶を出されてゆっくりと話をした。
『魔導連盟』について深く知りたい。
しかし、彼女も核心には触れなかった。いや、知らないのかもしれない。
『魔導連盟』は謎の組織だ。
魔法の権利関係を管理する特許庁のような役割をしつつ、独自の軍隊と莫大な資産を持ち、あらゆる魔法技術を調査研究する機関でもある。
本部は帝国にあるが、帝国に属しているわけではなく、魔族の都市や獣人の国にも支部が存在する。
ただし魔導後進国の王国にはない。
それでも王国にその権威は轟いている。
身近なところで言えば『星導十士仙』だ。冒険者ギルドが定める『星導十士仙』は『魔導連盟』が魔法職に授ける『星章』を基にしている。
要はこの世の魔導士の格付けは『魔導連盟』次第なのだ。
国や都市はこの『魔導連盟』に正当な手続きをして、技術の使用権利を買わなければならない。
ただ、国の有職者や権力者の指図、現地の法には従わないというスタンスだ。
おれは持参した論文を彼女に手渡した。
この結果、おれに『星章』が授与される資格があれば、連盟員が派遣される。
そこで支部設立の交渉をする形にしようとまとまった。
「それにしても、ロイド君があのロイド・バリリス侯だったなんてびっくりしたデスネ」
「先生、気づいていたんでしょ? その眼でいろいろわかるみたいですし」
「眼が無くても分かりますデスよ」
「もしかして、他にも気づいている人いるんですか?」
「それは……」
いるみたいだ。
気を付けよう。
学生のロイドが『怪童』だとバレているのは仕方ないが、それが『ロイド・バリリス侯』だと突き止められると厄介だ。
システィーナの正体までバレてしまう。
「では先生、気づいていると思われる人のリストを」
おれが紙とペンを出すと突き返された。
「大丈夫です。信じてください」
「はい」
「ふふ、そういう素直なところ好きですよ」
「ぼくはよく気味が悪いとか、ひねくれているとか、甘いとか言われるんです」
「そんなことありません。ロイド君は頑張り屋さんでとてもいい子です」
「オズ先生……」
ああ、救われる。さすが巫女。
人気があるわけだ。
学生の間で密に想いを寄せている男子が多いのも納得。
実年齢300歳以上だけど。
「ぼくも先生の年齢について黙ってます。絶対言いません」
「ああ、ロイド君。ちょっと誤解されやすいかもデスね……」
「え?」
オズ先生に誤解されやすい言動について数時間説教をされていた。
「先生、なんだか外が騒がしくないですか?」
オズの研究室がある学部塔から外を見下ろすと、学院では見慣れない役人の集団がずかずかと学内を練り歩いている。
「我々は内務省のものだ!! ここにロイドという学生がいるはず!! 先の魔導書盗難事件において、コーラ・ゴーマン氏に濡れ衣を着せるため虚偽の申告をした誣告の罪に問われている。隠し立てせずに引き渡すように!!」
魔導連盟に内務省が押し入ってきた。
「隠し立てした者は共謀罪とみなすぞ!!」
おれが出ていこうとするとオズが止めた。
「待ってください。彼らに姿をさらせばあなたの正体がバレます。そうなれば彼らの思うつぼです」
「わかってます。ですが……」
このままでは無関係の学生たちまで巻き込まれてしまう。
役人たちは捜索と称して工房を荒し始めた。
制止した学生たちをはねのけ、突き飛ばし、連行していった。
「このまま続けるぞ!! ロイドが出てくるまでな!!」
おれは我慢できなかった。
「ロイド君!」
オズの制止を振り切り、おれは下に降りた。
するとそこにはおれより先に女学生が立ちふさがっていた。
「これ以上の乱暴狼藉は許しません」
「許さないだと? 生意気なお嬢ちゃんだ。来い! 連行する。口の利き方を教えてやる!!」
「その人に触れるなぁぁぁ!!!」
おれは役人たちに魔法を使っていた。




