幕間『懲罰会』会頭ベリアム
エリン・ロンバルディアの戦闘力は大したことはない。
ただ油断ならない。
長生きのようで、知り過ぎている。
おそらくここに来れば私の正体にも気が付いただろう。
予想外だったのは、同行者がロイド卿だったことだ。
「首領、すいません。エリン以外は生きてます」
「いやよくやってくれたよ。あの『陰謀潰し』を相手に生きて戻っただけで十分だ」
エリンさえ死ねば視察どころではないだろう。
捜査はあるだろうが、内務大臣に処理させれば問題ない。
「それで? ロイド卿はどうだった?」
「情報以上です。魔法を封じて5人がかりでなんとか、というレベルです」
「危険だな。幼くして力を持ちすぎると傲慢な人間になる」
「消しますか? それとも使いますか?」
ロイドには弱みが多い。
親しい者が大勢いる。
操ろうと思えばできる。
「やめておこう。下手をすれば消されるのはこちらだ」
「まさか」
「ふふ、冗談だよ。だが半端に様子見しようとすれば、彼は全てを追究し我々に迫るだろう」
ロイドは我々が知らない切り札をまだ持っている気がする。
それに付け込む隙と同じく、不用意に攻められない強い仲間がいる。
それも、王宮、軍務局、冒険者、神殿と幅広い。
なぜか四大貴族ともそりが合うらしい。
才能ある者を多く見てきたがロイドのそれは魔法ではない気がする。
あの魔法力は何かとてつもない力の副産物のような、そんな底の知れない力がある予感がする。
「すでに内務大臣が干渉していますが」
「放っておけ。私は命じていないのに、竜の巣を不用意に突くからこうなる」
「奴はあなたの人脈と商売の力を自分のものと勘違いしている節があります。切りますか?」
「友よ、仲間たちの傷が癒えるのを待て。しばらく静観することにする。内務大臣はどうぜ自滅するだろう。器ではなかったのだ」
「ですが魔導技研を放置するとこちらの商売の邪魔になります」
「それは彼らの出方次第だな」
私は人に値段をつける。
人材は商品だ。
この世には汚い仕事も必要なのだ。
私にだって良心はある。
やめたいと思ったことはあるが、私が辞めれば秩序は崩壊するだろう。
例えば私の友人で忠実な部下である彼。人を殺すことを趣味にする殺人鬼だ。解放すれば毎日人を殺し続けるだろう。
異常者だが処刑の執行人として適正がある。
必要な仕事を担っている。
恐怖の象徴としてあり続ける。
鉱山で犯罪者を上手く統率し、山賊に一線を越えさせないようにし、賭場の縄張りを管理する。
私はそのために人を派遣し、金を流し、時にこの手を血に染める。
代々受け継いできたこのベリアム家の宿命だ。
我々の存在はいつしか内務省所属の準軍事組織『懲罰会』として認知されていった。
そうして数百年。
役目は途絶えていない。
私は必要なことをしている。
私欲ではない。
それならとっくに投げ出している。
「魔導技研の狙いは魔導士で構成される新たな軍だ」
「我々の流通網を使うと?」
「身綺麗でいたいなら、我々をせん滅して奪うだろう」
「ロイドは理想主義者だと聞いています」
「傲慢な人間でないと祈ろう。さもなければ戦争だ」
この数百年、『懲罰会』の会頭の元にたどり着いたものはいない。
裏社会で私は『第五侯』と呼ばれている。
その気になれば王国の転覆も可能だ。
魔導技研がこの力の根の深さを理解するといいのだが。
 




