1.御前会議の攻防 魔法省設立への道
御前会議に呼ばれた。
国王プラウドをはじめとして、各省庁の大臣たちが集まっていた。
「ロイド卿は『怪童』の技術を他国にリークしている! そういう情報がワシのところに入ってきておる!!」
会議でおれを告発したのはグスタ内務大臣。
何かと問題にしたがる要注意人物。
どこから情報が漏れたのやら。いや、本当に漏れたのか?
「これが本当なら国家反逆! これはロイド卿のみならず、席を置く魔導技研全体の責任だ!」
内務大臣は脂ぎった顔に笑みを浮かべ勝ち誇っている。
典型的な権威主義者だ。
内務大臣にとって、国内の人材や情報は自分が掌握する権利があると思っているのだろう。
金と権力を振りかざし、優秀な人材は奪うか潰すかして、何にでも口出しする。
「ワシもロイド卿には目をかけてきたのだ。だから、陛下には寛大なご処置をお願いしてある! ワシが魔導技研、悪いようにはせん。いいな?」
「内務大臣それは……」
「貴様には話して居らん! 女の分際で御前会議を汚すな!! 不敬だ、出ていけ!!」
エリン室長ですらこんな扱いだ。
理屈じゃ敵わない相手はこうやってねじ伏せる。
前の臨時会議でもこれで会議が全く進まなかったという。
「ロイド卿、これはちゃちな揺さぶりだ。情報の真偽は分からない。くれぐれも」
「噂ではわかりません。一体具体的にどんな罪を犯したのですか?」
内務大臣はあきれた様子でおれのケンカを買った。
「おい、我々貴族が目をかけて育ててやったんだぞ。その我々の面子をつぶそうってのか? ワシが適当な理由で御前会議を招集したというのか、小僧ぉぉぉ!!!」
怒号が響き渡った。
「大臣は以前にも他の省庁に圧力をかけ、過干渉で問題を起こされていますよね?」
「貴様、責任逃れする気か!!」
「責任を問うなら、私が一体誰に負ったどんな責任に背いたのか知りたいというだけです。証拠も無く嫌疑をかけることは明らかな越権行為。そもそもご存じかと思いますが私は王宮騎士団に所属しており、私の行動に問題があるのなら王室監査室が取り締まるのが決まり。それを飛び越え、正当な手続きを踏まず言いがかりで陛下をはじめ、各大臣方を招集した責任はどうなのでしょうか? それから、ロイド・バリリス・ハート・ギブソニアの名誉はそこまで軽くありませんから、どうぞお覚悟下さい」
怯まないおれの態度に大臣は口をパクパクさせた。
「もういい! 話にならん!! 魔導技研は我々から魔法技術を盗んで売ってるんだ! こんな組織解体すべきだ!! どうだ、皆さん!!?」
どんどんとテーブルをたたきながら、周囲を見渡す内務大臣。
すると財務長官が手を上げた。
「賛成ですね。人材を貸してるのに状況を明かさず、我々をのけ者にしている。その上、うちは予算も出してるんですよ? 報告をしないで疑われたら『ただの噂』では、ねぇ? 皆さん」
続いたのは軍務局長だ。
「軍事技術はうちで管理する。それが筋だろ!!」
「待て、なぜそうなる? 魔導技研にとって代わる気か? 独占するなんて不当だ」
「そうです。これじゃ人材を貸し出したところは秘匿技術を流出させただけじゃないか」
「まぁまぁ、皆さん、こうやって問題が起きるのはわかったことですし、これまで通りやりましょうよ」
露骨だな。
予想通り、刈り取りに動いたようだな。
しかし根回ししていたのはそっちだけではない。
「法務省から良いかな?」
魔導技研解体に沸く会議に、老人のか細い言葉が行き渡り、秩序を取り戻した。
四大貴族、ブルボン家先代当主の弟君であり、元当主ジョルジオの相談役でもある、『御老公』ウィンズ・ネス・ブルボン法務大臣だ。
「いつから魔導技研が内務省の傘下になったのか。魔導技研の存続を決めるのは内務省かね? それとも財務庁か? その法的根拠は?」
「しかし、『御老公』、これは……」
「縦割りで仕切られた組織に透明性を求めるのなら、各々方にも自省内の監査役からの実りある報告を聞きたいものですなぁ」
沈黙した。
内務大臣たちはおれをすさまじい形相で睨む。
おれにだってコネはある。それを使ったからってくせに怒るなよ。
「よくやった。見直したぞロイド。『陰謀潰し』は伊達ではないな」
「これでもぼくは甘いですか?」
こうしたちょっかいはその後も度々起こった。
時間が経つにつれて圧力のかけ方が露骨になっていった。
魔導技研の参議の人事を断行して地方に異動させようとする。
それを起点に、機密情報を聞き出そうと脅しをかける。
平民での官僚は家族の安全にまで警告をされた。
当然、手をこまねいているおれたちではない。
戦いが始まった。
構図はシンプルだ。
魔導技研支持派と反対派。
◇
「お話があります。軍務局長」
エリン室長が切り崩しにかかったのは軍務局長だった。
彼女は取引を持ち掛けた。
「魔導技研が管理する魔法技術がいずれ軍務局に供与される。損はさせない」
「夢で国は護れん。どうせ技術の根っこは貴族に押えられる。軍にその残りかすだけ与えられているのが現状だ」
「それを我々が変える」
「どうやって? お前たちの動きは誰の支持を受けている? 陛下は干渉しない構えだ。この件に大物が関われば、反動勢力の動きに拍車が掛かる」
おれたちは計画を話すことにした。
エリン室長が描く『魔導軍再編計画』。
軍務局長はその巨大な構想に驚きを隠せない様子だった。
「馬鹿な! 夢物語だ!!」
「『怪童』の技術は現実だ。我々はそれを押えた。これを軸にこの国の魔法技術の基盤を一段高く構え直したい」
「四大貴族はどうする? 彼らの一人でも反対すれば、国の四分の一が反動勢力と化すのだ。下手をすれば国が割れるぞ!!」
「その点は、彼に」
「ぼくぅ~?」
そこでおれは自分も知らなかったおれの役割を知った。
エリン室長の采配。
「ロイド卿が? あなたが交渉するのではないのか?」
「四大貴族の当主全員とコネがある人物はロイド卿ぐらいのものだ。彼ならできる」
「室長……」
彼女はおれを信じてくれたようだ。
「彼を一軍人や一官吏として使うのはナンセンスだ。この天才の最大の利点は無駄に顔が広く、信頼があることだ。最強の交渉人さ」
「なるほど、確かに。上手くロイド卿を挟めば」
「ロイド卿はこうやって使う。これが一番合理的だ」
緩衝材かよ。
「わかった。事態が進展するまで軍務局は魔導技研の動きを静観すると約束する」
 




