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22.ロイド、試される

 改めて会議に参加した。

 

「ざっと計画を立てている。ロイド卿、ご覧あれ」


 エリンがおれに紙の資料を渡した。

 エリン・ロンバルディアは宮廷魔導師団の参謀室長だ。

 ヒースクリフの上司。


 年齢不詳で二十代なのか三十代なのかわからない。

 珍しい黒髪を束ね、最低限の化粧をし、いつも同じ服装をしているミニマリスト、リアリスト、仕事人間、鉄仮面。ヒースクリフは陰で『魔女』と呼んでいる。

 戦略を練るのが得意で、この会議でも計画立案の中心として動いていた。



「我々の目下の障害は、縦割り組織から生じる探り合い、過干渉、圧力である」


 自らの出世や金儲けのために、権力を利用する者が現れる。それはどこの世も同じだ。


 魔法とはその情報自体が千金に値する価値を持つ。


 省庁のトップは魔導技研を潰しにかかるだろう。それも程よく実ったところで刈りに来る。

『怪童』の身元を判明させれば、それは魔導技研の最初の功績となると同時に、権力闘争開始の合図となる。


「我々が優勢な点は『怪童』=『ロイド・バリリス侯』と知っていることのみ。よって、我々は『怪童』の情報を段階的に公開する【情報戦略】で戦うことで、最終的な【魔法省設立】を達成する」


「計画は四段階」


 一、『魔導連盟』の承認と支部の招致。


『魔導連盟』は魔法技術の保護と魔法職の権利を保障する国際機関。

 おれが作った『日傘』を交渉材料に王国の魔法省設立を支持してもらい、支部を誘致する。



 なるほど、最初の一撃としては理想的だ。



 二、四大貴族との連携。



 地方貴族をまとめている四大貴族の協力は不可欠だ。



 三、『怪童』からの技術供与発表。



 このタイミングで情報を公開していく。

 その時には粗方話はまとまっているというのが理想だ。



 四、『魔法省』設立。


魔法職の待遇を変える。

 具体的には発見や発明をした人がその手柄を奪われたり、濡れ衣を着せられたり、脅されたりするのを阻止する。

 つまりは魔法職の保護。

特許の管理と権利の明確化。


 身分を理由に貴族を特別扱いしたり平民に不当な評価をするなど、魔法職の不安定な評価を是正する。

 つまり公平な評価方法の確立。



 すごく簡単そうに書いてある。


「大まかな流れはわかりましたが、人員が限られてますからね……」

「人手は多ければ良いというわけではない。特に初期段階で重要なのは情報漏洩(ろうえい)対策だ」

「そうですね」




 情報漏洩(ろうえい)

 それが分かっているのならこんな計画書作るなよ。


 あれ?



 本当になぜ作った?


 この計画書だ。

 全員分手書き。

 分厚い高級な白い紙を指で摩る。

 感触と独特なにおい。



 紙に刻印魔法が仕掛けられている。

 おそらく、なんらかの条件で魔法的な仕掛けが発動し、裏切り者を炙り出す類のもの。


 この漠然とした計画を餌に、不穏分子を洗い出す作戦だ。

 実に戦略家らしいあぶり出し方だ。



 しかし、このやり方はまずい。



 明らかに矛盾した行動だ。

 おれ以外にも気付く者はいるはず。

 いや、警告のつもりか。



 いずれにせよエリン室長の印象は悪くなる。それどころかここを追放もありえる。


 彼女の作戦立案能力はこの魔導技研に欠かせない。



 彼女に不和を起こさせてはならない。


「情報漏洩というなら、この資料は良くないでしょう」



 おれはその場にいた全員分の資料を、『発火』で燃やした。

 驚く参議たち。

ちらりとエリン室長を見ると、不服そうな顔をしている。



「もういいのではないか、エリン室長」




 議長の宮廷魔導師団長ハウゼンが呟いた。




「結構。ですが、やはりヒースクリフの息子だ。甘い」

「えぇ?」



 やり取りの意図がつかめずおろおろしていると参議たちから拍手が起こった。




「仕込みにすぐ気が付くだけでなく、室長の立場を慮るとは恐れ入りますね」




 はめられた。

 おれは試されていたようだ。

 やな感じ。



「すまないな、ロイド卿。中にはお主の実力を噂でしか耳にしたことのない者も多く、秘密の多いお主がいることが危険だと考える者もいたのだ」

「そうですか。エリン室長もですか?」

「私が危惧したのは能力ではない。君は甘い。そもそも『怪童』であることを明かした意味が分からない。君なら我々を利用することもできた。君のそういう非合理的で予想ができないところが……気味が悪いのだ」



 ひどいな。



「気味の悪さでは『魔女』の方が勝ってると思うけど」

「あ゛あ゛? それは私のことか? 陰で君とヒースクリフは私をそう呼んでいるのだなぁ?」




 彼女の虚ろな目がおれの眼を覗き込むように近づいてくる。


 怖い、このおばさん。




「まぁまぁ、そこまでにしろ。結果は出た。ロイド卿は能力と誠実さを見せた。私はそれを評価する」

「ありがとうございます」

「だが、私からも言っておこう。ロイド卿、お主は確かに甘い。目的のために仲間を切り捨てる。その覚悟は持っていなさい」




 仲間を切り捨てる。

 それはおれから最も縁遠い行為だな。




 おれは前世の後悔を経て、今の生き方を選んだ。




 おれは甘くない。

 ただ後悔したくないだけだ。




「私の覚悟は不正や横暴と戦うためにあります」

「ご立派な理想主義者だな」

「ご安心を。不正や横暴を働く者は仲間ではありません。喜んでその代償を払わせますよ」

「横暴か……ちっ、甘ちゃんが」



 エリン室長はおれの回答が気に入らなかったようだ。

 すごいガンつけてくる。

 おれもここは退かない。


 参議たちに仲裁、というか引き離された。

 この日を境に、おれは魔導技研の本当の一員として認められたようだ。





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