20.組織
だだっ広い居室には雑然と安っぽい長机が並べられている。
部屋の広さに対して、随分と人が少ない。
事前に確認していた人数しかおらず、それぞれが秘書官も連れていない。
とにかく人が少ないことが目についた。
「おぉ~!!」
部屋に入るなり、歓声と拍手が巻き起こった。
皆立ち上がって迎えられている。
「え?」
マイヤと共に戸惑っていると、扉の近くに居た一人が前へ前へと促す。
「よく来てくれたな、ロイド卿!」
宮廷魔導士長ががしりとおれの肩に手を置いた。
思っていた反応と違う。
ヒースクリフの上司であるし、何度も顔を合わせているが、おれが来たことを喜んでいるように見える。本当に心の底から。
懐柔作戦か?
ふと学院長、学部長と眼が合った。この二人はおれが『怪童』だと知る数少ない人たちだ。
学院長は何をしても怒らないおっとり校長先生のように毒気の無い方だ。
しかし今日はプルプルと震えている。シンバルを持たせたら警戒なリズムが刻めそうだ。
学部長は普段の作業着から着慣れて無さそうな法衣に身を包み、表情がぎこちない。
罠だったら二人だって面倒なことになると分かっているはずだ。宮廷所属の官僚でありながら王女の意に背いたとなれば居場所はない。
考えを巡らせているうちに学院長が戸惑うおれたちに話しかけて来た。
「これはこれは。対抗戦の折は解説助かりました。ああ、紹介させて下さい。こちらは我が学院の学部長だよ」
「どーも。よろしくお願い致しやす」
知らないフリか。
二人共知らなかった体で進める気か?
無理が無いか?
「マイヤ卿も、よく参られましたな。いやちょうど良かった。あなたにもいずれご相談しなければならないことであったからな」
「はい?」
おれたちが座ったのは議長である宮廷魔導士長のすぐ横だった。
糾弾される感じではない。
パーティーだったらこの位置は主賓のような扱いだ。
いや待て‥‥‥
試されている?
おれを泳がせて言質をとる作戦か?
「ロイド卿がいれば、世の中の見方も大きく変わる。頼もしいですよ!」
「魔法が特権階級にのみ独占される恐ろしいものという印象は拭えないからな。体制刷新にあたり大衆の理解は重要だ。もちろん、魔導士たちからの信頼もある」
「いやいや、一番うれしいのは分析・実務面でしょう。ロイド卿は聡明でかつまだお若い。それになんと言ってもあの『後天的魔法力付与』は驚きました」
「それを面白くないと思う者もいるがな。ロイド卿は頼もしい仲間であると共に、我々が護るべき王国の資産でもある」
「けれど、ロイド卿の例は他の方には当てはまらないでしょうね。何と言っても王女殿下をお救いした英雄なのですから」
「おまけにこの会議への風当たりも弱まってますよ。四大貴族が認め、ギブソニア家嫡男であり、騎士爵にして王女殿下の騎士序列四位ですからね。本部の場所や施設についても融通してもらいたいですね」
「神殿と冒険者とのつながりも強い。しかも『陰謀潰し』の実績は影響大。特に内務大臣や財務長官辺りが今頃地団駄を踏んでいるだろうな」
「いや~、まさか王宮騎士団に所属され、姫様の下にいるロイド卿がこうしてご参加いただけるとは思いませんでしたなぁ。ありがたい!! 心強い!!」
「議長に感謝ですね。さぁ、まずはロイド卿にこの会議の趣旨と、具体的達成目標、それに対する計画についてお話ししましょう」
熱意!!
参加している面子を見ても、傀儡という感じがしない。
何人かは顔見知りだ。
省庁間の摩擦や家柄を意識して、社交辞令的に嘘で塗り固められたやり取りをしているようには思えない。
全員がこれ演技だったら、人を信用できないな。
おれとマイヤはアイコンタクトで確認し合った。
そしてみんなががんばって造ってくれた答弁を手放し机に置いた。
バレてない!
やったぜ!!
ああ、心配して損した。誰だよバレたって言った奴ぅ~!! おれだ。
いやだって、発足とほぼ同時に呼び出しだもん。そりゃ勘違いするって。
「まずはこちらの資料をご確認ください」
「あ、はい」
マイヤが受け取り、おれに手渡した。
パラパラと確認する。
予想していたよりずっと建設的で、思い切ったプランだった。
「魔法省の新設、ですか」
「そうだ。現在の分散した体制では問題の解決力に難があり、臨時会議には主導する力が無い」
ざっと目を通す。
よくここまでこぎ着けたものだと思う。
各省庁からしたら魔法に関する人材を奪われるわけだから到底認められないだろう。だが、ここで渋れば魔法という大きな枠から外されてしまう。
内部情報を報告させるための一時的措置か?
いや、ここいる人たちは試験で選んだのか。
通りで聞いたことの無い役所からも選ばれているわけだ。
「魔法省は魔法技術の保護と発展を目的とする。独占を廃し、技術を広めることで魔導後進国から先進国の帝国に追い付く。その過程で各省庁の問題により正確で早く対処できるようになるだろう」
魔法省の新設により権力闘争から人材を貧富や出自に関わらず保護。生み出された新理論や新技術を企画・開発した道具にして広める。根幹技術を管理統制して技術の暴走を防ぎながら、魔法技術の恩恵を広め、魔道具を身近な者とし、人材登用の幅を広げる。
ちょっと、理想論っぽいけど、悪くない。
「なるほど、その第一例がこの『怪童』ですか」
ほほう。
これは棚から牡丹餅だな。
『怪童』について、まだほとんどわかっていないじゃないか。
そうか、『冷凍冷蔵庫』にしろ『日傘』‥‥‥会議では『紐付き杖(仮称)』となっているのか‥‥‥味気ないなぁ。
『冷凍冷蔵庫』にしろ『紐付き杖(仮称)』にしろ、システィーナの助けが大きかった。そこがごっちゃになって存在しない人物なっている。
『怪童』を見つけ、その技術をから新たな魔道具を開発する。
そこまで成功すれば、大きな実績だ。
誰も反対できない。
おもしろい。
協力しよう。
ただし、あくまで情報提供者として『怪童』の折衝役を一任させてもらう。
ロイド・ギブソニアは魔法省の総意として『怪童』の秘密を保持し、その生命と権利を保守する。
その見返りとして、魔法省に研究成果を提供する。
魔法省はその情報をもとに開発・製造をする。その影響を見積もり、経済、軍事、外交のパワーバランスを調整、管理する。
完璧だ。
おれは好きなものを研究して、造ってもらいたいものを魔法省の魔工技師に造ってもらえる。しかもその後の面倒な管理面を組織がやってくれる。
秘密も守られる。
これまで通りの生活ができる。
最高じゃね?
おれは手を挙げた。
「うむ。ロイド卿、貴公の意見をお聞かせ願おう」
「『怪童』はぼくです」




